参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
5月というのに妙な「暑さ」が続いています。日差しの強さが例年の5月ではないような感じです。地球温暖化が気になりますが、「アツサ」と言えば、証券市場の熱気も微妙な感じ。中国は沸騰、日本は生温い印象ですが、「熱さ」の原因が気になります。
先週、各国財務相による主要国首脳会議(G8)準備会合がポツダムで開かれ、ヘッジファンドの監視強化を唱える声明を発表。ヘッジファンドによる投機が世界経済の波乱要因という認識です。
ヘッジファンドは1949年に米国で誕生した概念。フォーチュン誌の記者であり、社会学者でもあったアルフレッド・ウィンスロー・ジョーンズ氏が自分の資産(ファンド)の運用リスクをヘッジ(回避)するために空売りを行ったことが始まり。
1950年代後半から60年代前半にかけて同様のヘッジファンドが好成績をあげて市場関係者が注目。1966年、フォーチュン誌がヘッジファンド型の投資運用モデルが通常型の運用実績を85%も上回ると紹介し、市場の関心が一気に高まりました。60年代後半には米国内のヘッジファンド運用会社数は200社に増加しました。
さらに20年後、日米の金融緩和、バブル経済を背景にヘッジファンドが急増。ジョージ・ソロスやジュリアン・ロバートソンといったヘッジファンド・マネージャーの成功が耳目を集めました。
今では、巨額の資金を運用する投資主体を総称してヘッジファンドと言います。必ずしも、ジョーンズ氏のファンドのように、リスク回避だけが目的のものばかりではありません。むしろ、投機的ファンドの方が多いようです。
ヘッジファンドの資産総額は1990年当時の400億ドル弱から2005年には1.5兆ドル超に膨張。運用会社数も約500社から9000社以上に増加しました。
1990年代半ば以降の世界的な金融緩和による資金余剰、とりわけ日本と米国と中国の異常な金融緩和が支えた動きと言っても過言ではありません。
このメルマガで何度もお伝えしていますが、今やマネーに国境はありません。日本の金融緩和は中国に影響を与え、中国の金融緩和は米国に影響を与えます。その米国自身も、財政赤字と貿易赤字という「双子の赤字」のファイナンスのために長年にわたって金融緩和を続けています。
日米中の金融緩和は、原油、非鉄金属などの国際商品市況に影響を与えます。当然、ヘッジファンドの資金規模にも大いに関係しています。
もっとも、ヘッジファンドが全世界の運用資産に占める割合は1.5%程度。現在の世界的な金融緩和がいかに大規模なものかが推測できます。
金融緩和に伴う余剰資金がヘッジファンド以外にも流入。そうした資金がヘッジファンドを追随して市場のボラティリティ(価格変動性)を高めています。バブルの再来と言っていいでしょう。
投資家の出資金の数10倍もの借入を梃子に投機を行っているヘッジファンドも少なくありません。バブルですから、ヘッジファンドなどに対する金融機関の融資姿勢も相当緩んでいます。
日米中3ヵ国は、過去の轍を踏まないように、細心の注意を払って金融政策を運営しなくてはなりません。
金融緩和の恩恵を最も受けているのは中国。元安の影響もあって、外貨流入、貿易黒字を背景に、昨年2月に日本を抜いて世界一の外貨準備保有国となりました。
今年3月末で1兆2000億ドル(約144兆円)の外貨を保有。中国政府は投資会社を設立して、米国の大手ヘッジファンド、ブラックストーングループに30億ドルを出資するそうです。今や中国は、共産主義の鎧を着た資本主義国家として変貌を続けています。
こうした状況下、バブル崩壊のトリガーになりそうなのも中国。上海総合株価指数は今月9日に初の4000台を突破。過去半年間で2倍、2年間で4倍に上昇。北京五輪までは当局が株価を維持するとの妄信が市場を支配していることもバブルの一因。
中国人民銀行はバブル崩壊を警戒。利上げと預金準備率引上げを行って沈静化に乗り出しています。
ところで、ヘッジファンドの運用モデルは5類型。M&Aや破綻に目をつけたイベントドリブン型。上場株式の割高感、割安感を基準にしたエクイティヘッジ型。マクロ経済の分析に基づくグローバルマクロ型。銘柄ごとのトレンド分析やシステム運用を行うマネージドフューチャー型。関連銘柄、類似証券間の価格の歪みを利用したレラティブバリュー型。
いずれも、この10数年間で相当のスキル蓄積とモデル高度化が進んでおり、監督当局が制御できるほど単純なものではありません。
G8、とりわけ日米両国が金融緩和を続ける一方で、ヘッジファンドの監視強化を掲げることはマッチポンプ。監視強化を唱えるよりも、金融政策の正常化が先決です。中国の金融政策、為替政策に対する監視、改善要求も必要でしょう。
引き続き、国会で議論していきます。
(了)