参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
年金問題が耳目を集めていますが、景気動向も気になります。株価も海外市場と比べると一進一退。東京一極集中の感が強い最近の日本経済。全体としての力強さを増すためには、地域経済や中小企業の活性化がポイントです。
2003年に設立された産業再生機構が今年3月に解散。産業再生機構の果たした役割、41件という再生企業数の多寡などについては、評価が難しいところです。もっとも、産業再生機構が再生ビジネスの人材を育てたことはプラスの側面でしょう。
今年に入り、産業再生機構の執行役員を務めた大西正一郎氏、松岡真宏氏のグループと専務を務めた富山和彦氏のグループが、それぞれ民間版再生機構とも言える新会社を設立。
これに先立ち、執行役員だった立石寿雄氏が2005年、木村貴則氏が2006年に企業再生ファンドを立ち上げました。産業再生機構の出身者が、民間版再生機構、企業再生ファンドの中心になっています。
富山氏の新会社設立趣意書には「顧客益、社会益を犠牲にする短期的、短絡的な自益の追求は行わない」と明記されているそうです。
産業再生機構出身者による民間版再生機構や企業再生ファンドが「和製ハゲタカファンド」と呼ばれないためには、設立趣意書の精神を堅持することが求められます。彼らの今後の動向に注目したいと思います。
民間でこうした動きが活発化する中、経済財政諮問会議が5月28日の会合で地域力再生機構の創設を決定。地域経済活性化を重点政策とする安倍首相の肝いりのようです。
解散した産業再生機構のローカルモデルであり、経営不振の中堅・中小企業の事業再生や第3セクターの破綻処理などを行うことを想定。来年4月発足予定です。
しかし、この地域力再生機構は多くの問題を抱えています。第1に、民間版再生機構や企業再生ファンドが立ち上がる中、明らかな民業圧迫。政府は民間版再生機構や企業再生ファンドとの連携を進めると説明していますが、そもそも「民」に任せればよいことです。
第2に、既に全国各地に地方企業再生のための中小企業再生支援協議会が設立されており、地域力再生機構は言わば屋上屋。政府は、地域再生機構は売上高20億円以上の中堅企業、再生支援協議会はそれ以外の中小企業を対象とする方針を示していますが、すみ分けを行って関係省庁の天下り先を増やしているような気がします。
第3に、対象企業選定や再生手続の不透明さ。産業再生機構も同様の問題を指摘され、国会でも再三取り上げられました。地域力再生機構は国会やマスコミの監視の目が行き届かないために、不透明さが増す蓋然性が高いと言えます。
地域有力者や地方政治家の介入によって存続不可能な企業が延命し、健全な競争が歪められる可能性があります。対象企業の資産査定の公正中立性もポイントです。不良債権を不当に高く買い上げ、将来的に損失が出れば、最終的には国民の負担になります。地域金融機関も、地域力再生機構から不合理な債権放棄を要求されることを警戒しています。
日本経済は好調と喧伝している安倍首相。地域力再生機構の創設を提案すること自体が矛盾しています。
地域力再生機構の創設決定に先立つ5月10日、スイスに本部を置く国際経営開発研究所(IMD)が2007年度の国際競争力ランキングを発表。
日本は昨年の16位から24位に後退。お隣に中国は昨年の18位から15位に上昇。日中の順位が初めて逆転しました。
民間経済や民間企業に政府が過度に介入すると、競争力や効率性を損ねます。地域力再生機構が日本の国際競争力をさらに低下させる結果につながらないことを願いたいものです。
1980年頃までの地域経済は、公共事業や補助金の多い先ほど活気がありました。しかし、その後はそうした地域ほど衰退が著しいのが実情です。
公共事業や補助金に依存した地域は、結果的に地域企業の自助努力のインセンティブを弱め、経済の疲弊と弱体化をもたらしました。
今後の地域経済再生は、「民」である民間版再生機構に委ね、「官」である地域力再生機構は余計なことをしないのが賢明です。
地域力再生機構が、不透明な対象企業選定を行ったり、地域における起業やイノベーションを阻害しないように、十分に注視していきます。
(了)