政治経済レポート:OKマガジン(Vol.155)2007.11.11


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


大連立と小沢代表の辞意表明を巡ってお騒がせしましたことを、所属議員のひとりとしてお詫び申し上げます。「雨降って地固まる」となるように頑張ります。一方、サブプライムローン問題という「雨」の降った経済は、残念ながら「地」がだんだんとぬかるんできました。

1.オーストリア学派

サブプライム問題の影響で日米株価が乱高下しています。シティグループではサブプライム問題による損失の責任をとってプリンス会長(CEO)が引責辞任。株価だけでなく、経営陣の進退にも影響が出ています。

日本の金融機関への影響も大きくなりつつあります。みずほフィナンシャルグループでは、サブプライム問題による損失が拡大する可能性があり、来年1月に予定していた傘下のみずほ証券と新光証券の合併延期を検討し始めました。

米連邦準備理事会(FRB)は先月31日、追加対策として利下げを決定。日本では日銀が異常な超低金利状態を脱するための利上げを企図しているものの、市場動向やFRBの利下げに配慮して金縛り状態。

日米中央銀行のこうした対応も株価には好影響を与えない一方で、投機資金が金融緩和の長期化を見越して原油などの商品市場に流入し、相場は急騰。世界経済は明らかに悪循環に陥り始めています。

私事で恐縮ですが、学生時代の恩師は故伊達邦春先生。経済の発展にはイノベーション(技術革新)による自律調整が必要であることを説いたシュンペーター研究の第一人者でした。シュンペーターはオーストリア学派に属する高名な経済学者です。

ハイエクなども輩出した同学派は、市場調整メカニズムへの人為的な介入は経済構造に歪みを蓄積し、重大な結果を招くと警鐘を鳴らしています。市場の混乱や経済危機に際して中央銀行の対症療法的介入が続くと、問題解決が先送りされ、かえって深刻なクラッシュを招く危険があります。

2.金融緩和の消費期限

中国人民銀行(中国の中央銀行)が9日に公表した報告書は、「中国の不動産価格は一部の地域で急騰しており、明らかに非理性的な要因が存在している」と指摘。中央銀行がこれだけ明らかな警鐘を鳴らすのは異例なことです。

過去のメルマガでもお伝えしていますとおり、現在の世界経済は日米中3極の金融緩和政策によって支えられています。メルマガVol.150(2007年8月27日号)で詳しく解説しています(ホームページにバックナンバーがアップしてあります)。

輸出大国に成長した中国は膨大な外貨準備を抱え、政府による外貨吸収の結果として過剰流動性が放置されています。また、中国は、日本のかつてのバブル経済のメカニズムを参考にして金融緩和を採用。ストックインフレによって資産価値を高め、資金力と国富を増やす経済政策を続けています。

世界経済の牽引車、米国はもともと「双子の赤字」をファイナンスするために金融緩和を経済運営の基本としています。機軸通貨国の米国としては、他国ほど金融緩和に対する制約がありません。

日本はご承知のとおり、10年以上に亘る異常な超金融緩和政策を継続。日本のマネーは米中にも流れています。加えて、低金利の日本で資金を調達し、相対的に高金利の米国や中国で運用する「円のキャリートレード」も活発化。こうした動きが、中国でのバブル経済、米国でのサブプライムローンの急増、原油・非鉄・穀物などの国際市況高騰につながりました。

最近、食品の不正表示問題で賞味期限、消費期限が話題になっていますが、バブル経済や異常な金融緩和政策の有効性にも限界があるかもしれません。

賞味期限切れの食品は安全に問題があるわけではありません。しかし、消費期限切れになると安全に懸念が生じます。消費期限を越えた金融緩和は、経済の不安定性、不確実性を高めます。

米国のサブプライム問題、中国人民銀行の警鐘、株価の低迷は、日米中3極の金融緩和が賞味期限切れになり、消費期限切れも近づいていることを示唆しているような気がします。

3.東証自主規制法人

こうした環境の下での株価低迷が気になる中、今月1日には東京株式市場が新たな局面を迎えました。東京証券取引所グループが上場審査や売買審査(不正取引監視)などを行う自主規制法人の業務を開始。

東証のあり方についてはここ数年国会でも議論になり、自主規制組織の独立、東証自らの上場断念を主張する意見がずいぶん交わされましたが、結局、グループ内での自主規制法人設立、2009年の東証自身の上場に向けて動き始めました。

自主規制法人と市場運営会社の利害は対立し、両者の立場は基本的に利益相反となります。しかし、自主規制法人の運営費は監視対象の市場運営会社の収益で賄う仕組み。

しかも、自主規制法人の理事長は元財務次官の林正和氏。自主規制法人の持株会社社長と監視対象の市場運営会社社長を斉藤惇氏(元野村證券副社長、元産業再生機構社長)が兼務。馴れ合い関係が懸念されます。

この問題については、Vol.96(2005年5月4日号)で解説しています。ご興味があれば、ホームページでバックナンバーをご覧ください。

中央銀行の人為的介入に加え、証券取引所の運営主体が上場審査や売買審査への手心で市場を下支えするような事態にならないように、十分な監視が必要です。国会としても注視していきます。

(了)


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