参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
本日の新聞に自民党と民主党の税制調査会の写真が並んで掲載されていました。与野党伯仲、二大政党化の現状を象徴している報道です。国民の皆さんから税金を集めさせて頂き、それを財源として政策を行うのが国家の基本的な仕組み。その税制を検討するのが政党の税制調査会。どのような税制や政策が実現し易いのか、そのメカニズムを原点に立ち返って考えてみます。今日の会合でこのお話をさせて頂いたところ、もう少し解説を聞きたいというご要望を頂戴しました。頭の体操にちょっとお付き合い下さい。
どのような政策でも、それを行うためには財源が必要です。財源を負担してくれる人は政策のコストを負担してくれていると言えます。
どのような政策でも、それを実行すると誰かがその恩恵に与ります。恩恵を受ける人は政策の便益を享受していると言えます。
コストと便益。このふたつが政策実現のメカニズムを理解するポイントです。
あともうふたつ、重要なポイントがあります。そのコストや便益を、誰が負担し、誰が享受するかということです。コストや便益が特定の人たちに集中するか、あるいは大勢の人たちに拡散するか。
集中と拡散。このふたつも政策メカニズムの重要なポイントです。
さて、コストと便益、集中と拡散。これらの組み合わせが政策の実現可能性を左右します。この考え方は財政学や政治学の基本です。どういうことでしょうか。
コストと便益、集中と拡散の組み合わせのうち、実現し易い政策となる組み合わせはふたつあります。
ひとつは「コスト集中、便益拡散」。コストが集中する人たちは、必死にその政策を実現しようとしたり、あるいは阻止しようとします。便益は大勢の人に拡散しますので、便益を受ける人たちはその政策の実現や阻止には関心が薄く、具体的な行動を起こしません。
コスト上昇=税金が増えるということですから、その財源で行う政策によって便益も増えます。しかし、コストが集中する=税金を負担する特定の人たちは必死になってその実現を阻止する一方、拡散する便益を受ける人たちは、一人ひとりが享受する便益は少ないので、それを率先して実現しようとする奇特な人は現れません。したがって、この組み合わせの政策は実現しません。
コスト減少=税金が減るということですから、その財源で行われていた政策は中止され、その便益も減少します。コストが集中していた人たち、すなわち税金の負担が減る特定の人たちは必死になってその実現を目指す一方、一人ひとりにとって減少する便益は少ないので、その政策の実現を率先して阻止しようとする奇特な人は現れません。したがって、この組み合わせの政策は実現します。
逆もまた真なり。実現し易いもうひとつの組み合わせは「便益集中、コスト拡散」。上述と同様に考えて頂ければ、解答を見つめるのは簡単です。
便益が減って、コストも減る政策は、便益が集中する特定の人たちの抵抗によって実現しません。一方、便益が増えて、コストも増える政策は、便益が集中する特定の人たちの努力によって実現します。
その努力こそが政治活動、ロビー活動。つまり、税金が減る場合の「コスト集中、便益拡散」の政策と、税金が増える場合の「便益集中、コスト拡散」の政策は、実現し易い政策の組み合わせとなります。
自民党、民主党の税制調査会で重要な検討課題となっている道路特定財源(自動車関係諸税)を例にして考えてみます。
これまで、道路特定財源を確保し易かったのは、税金が増える場合の「便益集中、コスト拡散」のケースに該当するからです。便益は道路建設に関わる特定の人たちに集中する一方、コストは大勢の国民と自動車ユーザーに拡散します。
便益も大勢に拡散しているという意見もあると思います。たしかに、利用率の高い道路の場合、相対的に便益は拡散します。しかし、利用率の低い道路は違います。また、利用率の高い道路であっても、道路はその地域の住民を中心に便益を享受することを考えると、国民全体で考えた場合は便益拡散とは言えません。
現在、道路特定財源を減らすこと(本則よりも高い暫定税率を課されている現状を改善すること)、あるいは一般財源化することが検討されていますが、いずれのケースも実現し難い政策と言えます。なぜなら、税金が減る場合の「便益集中、コスト拡散」のケースに該当し、実現し易いふたつの組み合わせではないからです。
これまでの経験と、財政学、政治学の基本に照らせば、結局、大山鳴動して鼠一匹。喧々囂々(けんけんごうごう)、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論の末、結論は出ないというのが従来の常識に照らした予測です。
もっとも、新しい組み合わせを想定すると、ちょっと違った展開もイメージ可能です。それは「コスト拡散、便益拡散」というケースです。
高い暫定税率を引き下げれば、道路特定財源を負担している大勢の国民=自動車ユーザーのコストは減少します。同時に、その便益をガソリン価格の値下がりと考えた場合、便益は大勢の国民=自動車ユーザーに拡散します。
コストも便益も拡散していますので、従来の常識に照らせば熱心にロビー活動を行う奇特な人は現れません。しかし、国民世論という「バーチャル・ロビイスト」を想像すると政策が実現する可能性があります。
ガソリンに限定せず、灯油なども含む燃料ユーザーを考えた場合、利害関係者(ステークホルダー)はもっと拡がります。農家も、飲食店も、家庭の主婦も、燃料を使う企業や産業の関係者も、全員、ステークホルダーです。言わば国民世論とも言えるほどの幅の広さであり、強力な「バーチャル・ロビイスト」です。
今年の税制改革では、税金が減る場合の「コスト拡散、便益拡散」という新しい政策の組み合わせの実現可能性が問われるかもしれません。
(了)