政治経済レポート:OKマガジン(Vol.157)2007.12.4


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


このメルマガはマスコミ関係者も読んでくれています。昨日、防衛省改革会議の初会合が開催されましたが、改革すべきポイントをマスコミ関係者にご理解頂くために、今朝の外交防衛部門会議などで明らかになった問題点を整理してお伝えします。ほかにもいろいろありますが、まずはとりわけ重要な3点です。

1.文民統制

防衛省改革会議の検討事項のトップに掲げられているのは文民統制の徹底です。いわゆるシビリアン・コントロール。

そこで、文民の定義について防衛省改革会議を仕切る内閣府に質問したところ、次のふたつの範疇に入らない人たちが文民になるそうです。

第1は、旧陸海軍の職業軍人の経歴を有する者であって、軍国主義的思想に深く染まっていると考えられる者。第2に、自衛官の職にある者。

要するに、防衛省の背広組と制服組のうち、背広組は全員文民ということです。そういう意味では、守屋前事務次官も文民であり、守屋氏はまさしく文民統制を徹底して防衛政策を歪めたことになります。

文民統制でこういう事態が起きたのに、防衛省改革会議のメインテーマが文民統制の徹底とは一級品のブラックジョークと言えます。

因みに、内閣府から提出された「文民の解釈について」というペーパーを読むと、次のような記述もありました。

曰く「元自衛官は、過去に自衛官であったとしても、現に国の武力組織たる自衛隊を離れ、自衛官の職務を行っていない以上、文民に当たる」そうです。

守屋氏も文民、元自衛隊幹部(例えば幕僚クラス)も文民。今回のような不公正な事件が生じないようにするためには、文民や文民統制の実質的な定義と内容が極めて重要になります。形式的な定義と内容によって文民統制の徹底を検討すると、防衛省改革会議は本末転倒の結論を導くことになるでしょう。

2.「カンキュウ」と「シャキュウ」

この言葉は、今日の外交防衛部門会議で防衛省航空機課長から初めて聞きました。読者の皆さんは「カンキュウ」と「シャキュウ」の漢字を想像できますか。

今回の事件で問題になっている自衛隊の次期輸送機(CX)。CXは川崎重工業製。CXに使うエンジンはジェネラル・エレクトリック(GE)製。このエンジンの選定・導入過程で守屋氏やその他の政官財の関係者が不正行為を行ったか否かが問われています。

なぜエンジンの選定も含めてCX全体を川崎重工業に発注しなかったのか。実はここが問題です。自衛隊としては輸送機が所要の性能を満たせばいいのですから、推力等の性能も含めた発注を川崎重工業に行い、あとは同社の責任でエンジン付きのCXを納品してもらえばよいはずです。なぜ、エンジンだけGE製と決めたうえで、川崎重工業にCXを発注したのでしょうか。

この質問に対する防衛省航空機課長の回答が「エンジンはカンキュウですから」という内容でした。「え、カンキュウって何ですか」と問い返すと、「シャキュウに対する言葉です」との説明。「え、シャキュウ・・・ですか。カンキュウ、シャキュウはどのような字を書くのですか」と聞いて、教えてもらいました。

正解は「官給」と「社給」という字で、防衛省内の専門用語(テクニカルターム、または業界用語)。勉強になりました。

つまり防衛省が「官給」と決めたものは防衛省自身が調達して支給するという意味です。「何を官給にするかは、どういう基準で誰が決めるのでしょうか。また、官給にする場合のメーカーの特定は誰が行うのでしょうか」。この質問に対する明確な回答はありませんでした。引き続き調査を続けなくてはなりません。

防衛省改革会議が「官給」と「社給」の仕組みを明らかにすることを期待しています。それができなければ、防衛省改革会議は茶番と化すでしょう。

3.防衛秘密

先日、テレビの時事放談に塩川元財務大臣が出演し、「財務大臣が予算の内容を知ろうとしても、防衛秘密とされた項目の情報は知ることができない」という趣旨の発言をしていました。驚きです。内容が分からなければ、財務省はその予算の適否を判断できず、査定もできません。今まで、どうしていたのでしょうか。

そもそも、防衛秘密とは何か。この点も先日防衛省に質問したところ、今日回答を提示してくれました。防衛秘密の定義は自衛隊法第96条の2に明記してあります。

第1に「自衛隊についての自衛隊法別表第4に掲げる事項」、第2に「公になっていないもの」、第3に「我が国の防衛上特に秘匿することが必要であるもの」、第4に「防衛大臣が指定したもの」の4つです。

別表第4には10項目並んでいます。長くなるのでここには列挙しませんが、要するに自衛隊に関するほとんど全てのことと言っても過言ではありません。ご興味がある方は僕のホームページをご覧ください。トップページのブログにPDFファイルで添付しておきます。

そうした中で、防衛省改革会議の目的として、文民統制の次に、厳格な情報保全体制の確立と防衛調達の透明性が掲げられています。このふたつは全く逆方向の目的と言えます。

このままでは防衛省改革会議は迷走するでしょう。そもそも、現在起きている問題の本質を完全に誤解しています。

現在の防衛省は、調達を山田洋行などの商社や代理店に依存しているため、調達する兵器等の性能評価やメンテナンスを自己完結する能力に欠けています。技術的に何が防衛秘密なのかを特定することも十分にできないのが実情でしょう。

加えて、文民統制と言いながらその文民が不正行為を行っています。こんな状態で文民統制を徹底されては困ります。防衛省と言えども行政の一部。立法や司法の統制が及ぶ構造を目指すのが本筋です。「それは防衛秘密です」という呪文を楯に、立法や司法に対して、いや国民に対して不公正な姿勢で情報秘匿をする体質の是正が必要です。

さらに、「官給」という謎の仕組みによって、誰がいつ調達先を特定しているのかが分からない実情を明らかにし、それをどのように改善すれば信頼される防衛省と防衛政策が実現できるかを示すことこそ、防衛省改革会議の役割でしょう。

もっとも、何か不祥事があると外部人材による有識者会議を立ち上げて対策を検討するという最近の安直な傾向にはウンザリです。門外漢の有識者がすぐに有意義な提言ができるようでは、よほど専門性と自己規律に欠ける組織と言えます。任命する有識者も国会同意人事にしてもらいたいものです。

厳しい環境下で現場を担う自衛隊員や真面目に働く防衛省職員の憤りが、不公正な「官給」に関わっている奢る内勤文民幹部、制服組幹部、天下りOBに向かい、自衛隊と防衛省が自ら浄化機能を発揮することを期待しています。

立ち上がれ、心ある自衛隊員と防衛省職員。

(了)


戻る