ゴールデンウィークが終わり、昨日から国会も再開。連休前には道路特定財源暫定税率を復活させる衆議院での再可決が行われました。来週は、今後10年間で59兆円の道路特定財源を道路建設に使うことを決める道路整備財源特例法改正案の再可決が行われる見込みです。立場に寄って主義主張は違いますが、どのような主義主張であっても、合理的、論理的であることが重要だと考えています。
合理的、論理的な主張を行うためには、事実関係を正確に把握することが第一歩です。焦点となっている59兆円にはトリックがあります。ちょっと難解かもしれませんが、重要なポイントです。
この59兆円を、国土交通省は「道路整備中期計画で想定されている社会的割引率(4%)を加味しない現在価値」と定義しています。冬柴国土交通大臣もそのように答弁しています。したがって、計算上、10年後の将来価値は80兆円を上回ります。
数年前に、企業のゴーイングコンサーン(存続可能性)という言葉がずいぶん取り上げられました。ゴーイングコンサーンを判断する際に、先々の収益率、売上高の伸び率、物価上昇率、金利などに一定の仮定を置いて将来の経営状態を試算することになりますが、これらの仮定のことを総称して「割引率」とイメージしてください。
道路建設計画の合理性、経済性を証明するために国土交通省が使っている「費用便益分析マニュアル」というものがあります。このマニュアルの中には「社会的割引率は4%」と明記されています。ところが、59兆円という数字に関してはこれを加味していません。不思議ですね。
また、59兆円はあくまで道路整備中期計画に含まれる道路が対象ですから、一般国道やバイパスなど、それ以外も含めると10年間の道路建設予算総額は100兆円を超すことでしょう。
今回の国会論戦は道路政策のあり方がクローズアップされたという点では大いに意義があります。「道路が悪い」のではなく、厳しい財政状況の下、他の政策課題もある中で、「いくらの財源をどのぐらいの期間に道路に費やすべきか」が問われています。
福田首相が、道路特定財源を2009年度から一般財源化する方針を打ち出したことは評価したいと思います。そして、その方針が具体的な成果をあげるかどうかを見極めるために注視しなければならないポイントは以下の3点です。
第1に、福田首相が2009年度からの道路特定財源の一般財源化を約束しましたが、来週再可決される見込みの道路整備財源特例法改正案の内容と整合的ではありません。向こう10年間、59兆円の道路特定財源を道路建設に使うことを定めている法案ですから、この法案を再可決することは福田首相の掲げた方針と矛盾します。論理的ではありません。
仮に一般財源化が実現しても、可決された法案を根拠に、一般財源から59兆円を道路建設に投入すれば何も変わりません。首相の約束は、空手形ということになります。
第2に、道路特別会計が温存される限り、そこに投入された財源が不透明、不公正に使われるリスクは変わりません。仮に一般財源化が実現しても、その一般財源が道路特別会計に投入されれば、そこから先の不透明さは現在と何の変わりもありません。特別会計を廃止し、一般会計の中で道路建設を行うべきでしょう。
第3に、道路特別会計がなくなっても、要するに道路建設にいくら費やすかが重要なポイントです。他の政策課題と比較考量し、限られた財源の中で対応するのが当然です。道路建設だけを特別扱いする合理的理由はありません。
道路特定財源制度ができた昭和29年とは時代が違います。政治には、国民的ニーズに合致し、経済効果の大きい財源の使い方が求められます。もちろん、財源のムダ遣いや流用が許されないことは言うまでもありません。
医療、介護、年金、教育、産業振興、農業振興など、他の政策課題と十分に比較考量し、時代と国民のニーズに合致した優先順位付けを行うことが必要です。道路建設は悪くありません。但し、道路建設だけが特別でもありません。福田首相の方針が空手形とならないことを祈ります。
3月の企業物価指数は前年比プラス3.9%。第2次石油危機後の1981年2月以来、27年振りの物価上昇となりました。4月分も上昇するでしょう。もちろん、原油、鉱物資源など、燃料・原材料価格の高騰を反映した動きです。
消費者物価の動きは「耐久消費財」と「非耐久消費財」に二分されています。自動車、パソコン、携帯電話など「耐久消費財」の3月の物価指数は、生産性向上などが寄与して前年比マイナス3.0%の低下。一方、食料品やガソリンなどの「非耐久消費財」は同プラス3.2%の上昇です。
とくに、農産物の国際市況高騰に伴い、食料品価格の値上がりが顕著になりつつあります。大豆、小麦、トウモロコシなどの相場はこの1年で2倍前後に高騰。コメの指標であるタイ産米の価格はこのひと月で1.5倍に急騰。1トン1千ドルを突破する勢いです。乳製品などは、価格上昇だけでなく、中国などの大量買付によって物量を確保するのが難しくなっています。
食料品価格のインフレ傾向は主婦層がいち早く実感。過去20年間、価格がほぼ据え置かれてきた卵価格も値上げが近づいています。鶏のエサは、トウモロコシや大豆などの雑穀。エサの材料の輸入価格高騰で養鶏場の経営は苦しくなっており、値上げは必至。「物価の優等生」と言われる卵の価格が値上がりすると、物価上昇にいよいよ弾みがつきます。
こうした中、先月12日に東京新宿御苑で開かれた「桜を見る会」で福田首相が「物価上昇はしょうがない」と発言。ひんしゅくを買いました。
辞書を引くと「しょうがない」は「扱いようがなくて困る様子」。物価安定も首相の重要な仕事ですが、それを「しょうがない」と言う感性には絶句。物価安定の使命を担っている日銀総裁選びで迷走するのも「しょうがない」気がします。
サラリーマンの平均給与は9年連続で減少。その一方、物価上昇による家計(夫婦と子ども二人の四人家族)の負担増は月額4795円(日本総研試算)。暮らし向きは厳しさを増しています。福田首相はそれも「しょうがない」と思っているのでしょうか。
それにしても、首相の姿勢や発言は内閣や官僚機構全体に伝搬します。会社の社長の姿勢が社員や社風に影響するのと同じです。
経済産業省事務次官が講演の中で「個人投資家は、バカで、浮気で、無責任」と発言。国会でも問題になっていますが、本人は国会に出席せず、政治家(大臣、副大臣、政務官)が代わりに説明や擁護の答弁を繰り返しています。おかしな国です。
航空自衛隊の幕僚長が、イラク覇権は憲法違反という裁判所の判決について、公式の記者会見席上で「そんなの関係ねぇって感じです」と発言。これまた、経済産業省のケースと同じ展開になっています。
福田首相には、自らの発言の重さを自覚して頂きたいとともに、官僚組織や幹部の綱紀粛正を徹底するように求めたいと思います。
(了)