第170回国会が開会しました。「麻生太郎首相vs小沢一郎代表」の総選挙が間近に迫っていますが、米国の大統領選挙も11月4日。日米とも内政、外交に課題山積の中、11月には日米の新しい「顔」が誕生しています。
先月29日、共和党が副大統領候補にアラスカ州知事のペイリン氏を指名したことで、残すところ6週間となった米国大統領選挙は激戦になっています。
44歳のペイリン氏は、ジャーナリスト、市会議員、市長を経て、2006年にアラスカ州の最年少知事、初の女性知事に就任。72歳のマケイン上院議員とのコンビは、民主党のオバマ(47歳)氏、バイデン(65歳)氏(両氏とも上院議員)の正副大統領コンビと互角の戦いを演じています。 それにしても米国はすごい。見習うべき点が多々あります。4年前、当時の岡田克也代表とともにボストンで開かれた民主党の大統領候補指名大会に出席しました。そこで演説していたのは、当時は州議会議員で上院議員候補だったオバマ氏。4年後に大統領候補として国民が受け入れる米国の寛容さ、チャレンジ精神、スピード感には敬意を表します。 そして今度はペイリン氏。オバマ氏よりも若く、中央政界では経験のない州知事を副大統領候補として抜擢。今回の大統領選挙の展開次第では、ペイリン氏は4年後以降の大統領選挙において、今回のヒラリー上院議員同様に米国初の女性大統領候補として脚光を浴びるでしょう。 しかし、感嘆ばかりもしていられません。米国大統領選挙の帰趨は日本の政治経済に大きな影響を与えます。新大統領の政策スタンスを分析し、機先を制することが必要です。 オバマ氏は国内経済の立て直しに重点を置いています。保護主義的な政策を選択し、日米通商交渉は一段と厳しさを増すことが予想されます。米国内で雇用を創造する企業への減税策を打ち出しており、実現すれば日本企業の米国進出を促し、日本国内の空洞化を加速させる可能性があります。 一方、共和党が勝つ場合には、マケイン氏のスタンスに加え、ペイリン氏の考え方にも留意が必要です。 マケイン氏は、引続きイラク、イラン、グルジアなどの国際紛争に積極的に関与する姿勢を堅持。追随を余儀なくされる日本は大きな影響を受け、経済的負担の拡大は必至です。 おまけに、ペイリン氏は自由主義、資本主義の信奉者。日本はさらに厳しいグローバリズムに晒されるでしょう。 どちらにしても、日本にとって「高みの見物」とはいかないのが米国の大統領選挙です。大統領選挙はイラク戦争が争点の中心と思っていましたが、今月に入って経済問題がクローズアップされてきました。
7日、米政府は住宅抵当公社(ファニーメイ)、住宅貸付抵当公社(フレディマック)を管理下に置くことを発表。昨年夏に表面化したサブプライムローン問題の深刻さが顕現化しました。 15日、米証券4番手リーマン・ブラザーズが破産法11条を申請して破綻。世界に激震が走りました。同日、3番手メリルリンチは銀行2番手バンク・オブ・アメリカが買収を発表。17日には、保険最大手AIGを米政府が管理下に置くことを決定。 世界の金融証券市場の動揺を鎮めるために、15日以降、各国中央銀行が金融市場に断続的に大量の資金を供給。各国通貨に加え、米連邦準備制度理事会(FRB)の要請に基づいたドル供給も加えると総額50兆円を超えます。 20日、米政府は不良債権買取り案を公表。金融危機の主因であるサブプライムローンに端を発した銀行や証券の不良債権を約75兆円買取る方針です。個人投資家が保有するMMF(マネーマーケットファンド)の保護、市場での空売り規制など、矢継ぎ早に動揺を鎮めるための対策を公表しました。 米国では1990年代初めの貯蓄金融機関(S&L)破綻を契機とする金融危機の折にも、整理信託公社(RTC)による不良債権買取りを実施。 一方、日本ではバブル崩壊に伴う不良債権問題への対応が遅れました。長銀、山一などの破綻を経て、1999年に整理回収機構(RCC)が設立されてようやく本格化。しかし、実際にはその後の大手銀行再編と公的資金投入が金融危機対応の主役を演じました。 今回の米国の動きは、過去の米国や日本の対応に比べるとはるかに規模が大きく、かつ迅速。その点は評価できる一方で、事態の深刻さを露呈しています。 2008年9月は、セプテンバークライシス(9月危機)として世界経済の歴史に刻まれるでしょう。米国政府、各国中央銀行の対応を受け手、金融市場は表面上平静を取り戻しましたが、金融危機、信用収縮は序章に過ぎません。今後の留意点を次のように考えます。
第1に、米国政府が表明した不良債権買取りの価格水準や条件次第では、銀行、証券の経営破綻が続きます。 第2に、その場合に破綻先への公的資金投入を行うか否か。投入すれば市場安定化効果が大きい一方、財政やドルの信認が揺らぐ可能性があります。 第3に、買い取った不良債権を早期に売却すると政府部門の損失が確定し、やはり財政やドルの信認が揺らぎます。損失回避のためには、不動産価格が回復するまで不良債権を長期間保有することになり、政府部門、民間部門双方の活動が制約されます。 第4に、銀行や証券の破綻、業績悪化に伴い、信用収縮が広がるかどうか。米国のみならず、各国共通の問題です。信用収縮の動向如何では世界恐慌となるリスクもあります。 第5に、リーマン破綻、AIG救済という裁量的対応の是非です。政府の信認への影響が懸念されます。不良債権買取りの際の経営責任の追及の仕方も同様の問題を抱えます。 第6に、サブプライムローン問題の背景となった過剰流動性の動向です。不動産、原油などのバブル崩壊で規模は縮小しましたが、米国、日本、中国を中心とした世界的な金融緩和状態は続いており、過剰流動性は引き続き投資先を物色するでしょう。その動きが世界経済の次の展開に影響を与えます。 それにしても、金融証券界の栄枯盛衰は感慨深いものがあります。1970年代までの盟主は米国でしたが、1980年代は日米の交錯期。富士のヘラー買収、住友のゴールドマン出資、一勧のCIT買収、米国コンチネンタルイリノイの経営危機など、日本の勃興、米国の低迷という構図となりました。 1990年代は日本がバブル崩壊に直面。大手銀行、証券が次々と破綻し、2001年に一勧、冨士がCIT、ヘラーを売却、2003年にはゴールドマンが三井住友に出資し、1980年代の歯車は逆回転。 1997年以降の金融危機と不良債権処理、業界再編を経て、2006年にメガバンクが公的資金を完済。日本の金融システムが平静を取り戻したところにサブプライム問題が顕現化。今回の展開となりました。 23日には三菱UFJフィナンシャルグループがモルガンスタンレーへの出資を決定。同日、野村がリーマン・ブラザーズのアジア・欧州・中東部門の買収を表明。日米は再び交錯期に入ったようです。 日本の金融証券界には今回はスイーパー(事態収拾)役が期待されていますが、過剰流動性が放置されている以上、「歴史は繰り返す」リスクがあることを肝に銘じて対応するべきでしょう。 また、日本の金融機関の現在の資金力は、不良債権処理の過程で投入された公的資金の恩恵であることも忘れてはなりません。 いずれにしても、日米の新たな交錯期の動向を注視しつつ、適切に対処したいと思います。(了)