政治経済レポート:OKマガジン(Vol.178)2008.10.26


今年もあと1週間。秋以降に経済情勢が激変し、夏までとそれ以降の印象がずいぶん異なる1年となりました。北京オリンピックが今年開催されたことが幻のように感じられます。来年は良い年にしたいとは思いますが、とても楽観できる状況ではありません。冷静かつ的確な情勢判断を行い、一刻も早く政治経済を立て直すべく全力で職責を果たします。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


1.要注目の米国第2四半期

リーマン・ショックを境に世界経済の風景が一変した1年でした。

予兆は一昨年から顕現化し、昨年のサブプライムローン問題を契機に世界の知るところとなりました。そして今年のリーマン・ショック。その間に手を打てなかったのかという思いもありますが、それを主導できる世界のリーダーはいなかったというのが現実です。

主要シンクタンク(15社平均)の来年の米国の実質GDP予想は前年比年率(以下同)マイナス1.1%、日本はマイナス1.5%。

四半期毎にみると、米国は第2四半期、日本は第4四半期に要注目です。四半期ごとの前年比予想は以下のとおりです。

米国は、(第1四半期)マイナス2.1%(第2四半期)マイナス0.2%(第3四半期)プラス0.3%(第4四半期)プラス0.8%(通年)マイナス1.1%。

一方、日本は、(第1四半期)マイナス1.6%(第2四半期)マイナス0.6%(第3四半期)マイナス0.6%(第4四半期)プラス1.5%(通年)マイナス1.5%。

米国については、第1四半期のマイナス2.1%から第2四半期にはマイナス0.2%とほぼ前年並みまで減速幅が縮小し、前期(第1四半期)との比較では1.9%ポイントも前年比減少幅が改善。第2四半期の前年(つまり今年4-6月)はリーマン・ショック前。前年と同水準程度になるという予想は楽観的に過ぎます。

来年早々に就任するオバマ新大統領の経済政策が奏功しなければ、第2四半期の急回復は困難でしょう。

一方、相変わらず輸出依存率の高い日本。米国の急回復を受けて第4四半期にはプラス0.5%への回復が予想されています。しかも、前年比減少幅は前期(第3四半期)と比べプラス1.1%ポイントの改善。予想の当否は米国の回復動向に左右されます。

同時に、その頃までには日本でも新政権が誕生しています。新政権の政策の内容が影響するでしょう。

米国の第2四半期が予想比低迷すれば、日本の第4四半期も期待薄。その場合は両国とも年率マイナス2%以下となるリスクが高まります。まずは米国の第2四半期に要注目です。

2.中国・インド・ASEANの8・6・4%成長が鍵

米国以外の諸外国の動向も懸念されます。欧州は通貨統合後初のマイナス成長予想であり、とくに英国の低迷が顕著。

もっとも、日本の対欧州輸出比率は1割強であることから、日本がより深刻な影響を受けるのはアジアの動向です。

中国は8%成長の可否がポイント。人口増加と都市部に流入する民工(出稼ぎ労働者)対策に窮している中国では、成長率が8%を下回ると雇用情勢が急速に悪化。労働者による抗議活動や暴動が頻発し、治安が悪化します。そうなればますます経済は混乱し、日本や米国への影響が拡大するのは必至です。

インドの成長率は中国を下回り、IMF(国際通貨基金)見通しによれば2008年の7.8%から6.3%に減速。ムンバイでのテロを契機にした政情不安も影響し、外国資本や企業の撤退が加速。中国と同様に日本や米国にダメージを与えそうです。

ASEAN諸国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)も中国やインドと同様の傾向を示しています。

農産物価格の下落、日本や米国への出稼ぎ労働者からの送金減少、輸出減少、流入資本減少と悪材料が重なり、IMF見通し(5カ国平均)では2008年は5.4%から4.2%に減速。中心国タイの政情不安に伴う観光収入減少も顕現化しており、最終的には5カ国平均で4%を下回る可能性も指摘されています。

日米欧のマイナス成長がほぼ確実な中、中国、インド、ASEANの成長率がそれぞれ8%、6%、4%を下回る場合には、2009年の世界経済の低迷は予想以上の厳しい展開を覚悟しなければなりません。

政府が昨年7月にまとめた2009年度の成長率見通しはプラス1.6%でしたが、リーマン・ショック後の景気悪化を受けて年末に0.0%に下方修正。しかし、上述の主要シンクタンク予想と比較すると甘過ぎる見通しです。

楽観的な前提で予算編成を行えば年度後半に歳入不足による減額補正が必要となり、そのことは心理的にさらに景況感を悪化させます。政府が的確な情勢分析と厳しい前提で経済運営を行うことが必要な局面です。

3.「今年の漢字」と「今年の日本」

世相を表す「今年の漢字」に「変」が選ばれました。

オバマ大統領の「チェンジ」は「変」革。金融危機による世界経済の「変」動。国内では「変」な事件が多発。

「自分のことが客観的に分かるんです。あなたとは違うんです」と孫ほども歳の離れた記者にキレた前首相や漢字の読み間違いを連発する自称マンガオタク首相も失礼ながらちょっと「変」。

とは言え、来年の日本が少しでも良い方向に「変」化するように期待を込めて「今年の漢字」を心に刻みたいと思います。

年末恒例となった「今年の漢字」は国内から見た自己評価。世界から見た「今年の日本」を表すフレーズを選ぶのも、日本の現状と将来を考えるうえで有益かもしれません。

「今年の日本」は何と言っても「ジャパン・ミッシング(消えた日本)」。洞爺湖サミットの前に英紙フィナンシャル・タイムズのコラムで使われた表現です。「日本の主張がわからない。日本はどこへ行ったのか」という意味のようです。

思えば「エコミック・アニマル」と揶揄され、エズラ・ヴォーゲル氏が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を出版した頃は「ジャパン・バッシング(日本叩き)」。

しかし「経済は一流、政治は三流」と嘯いて経済力に自信過剰気味の日本は自己主張を怠り、やがて「ジャパン・パッシング(日本飛ばし)」と言われる始末。

さらには不良債権処理と構造改革に失敗し「失われた十年」とも「十五年」とも言われた1990年代後半から2000年代前半は「ジャパン・ナッシング(日本無視)」という不名誉な冠を甘受。今や「失われた二十年」と言うべき状況です。

そんな中、とうとう「日本よ、大丈夫か」という同情気味のニュアンスも込めて「ジャパン・ミッシング」。

世界のパワーバランスが「変」動しつつある今こそ、「自己主張し始めた日本」「ライジング・ジャパン」と評されるような政治経済の「変」革を目指すべきです。

人件費削減しか経営改善策が思い浮かばない「経済」はとても「一流」とは思えません。政治家、官僚だけでなく、財界人も自省が必要です。マスコミも学者も含め、「ジャパン・ミッシング」と揶揄される現状を生み出したそれぞれの責任を顧みるべきでしょう。もちろん政治が最も重い責任を負っていますが、各界の指導者は全員反省が必要です。

「ライジング・ジャパン」を目指して自らも全力で頑張ります。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

(追伸)日本再生のヒントを探るために、「ジャパン・ミッシング」(オープンナレッジ社)という本を出版しました。読者の皆さんのご参考になれば幸いです。ご興味があれば、書店でお買い求めください。

(了)


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