27日に補正予算案が国会に提出される予定です。ゴールデンウィークを挟んで、国会論戦は補正予算案の是非を巡る展開になります。
「改革の本丸」と聞くと何だか懐かしい響きがします。郵政民営化を「改革の本丸」と言ったのは小泉元首相です。
「改革の一里塚」は道路特定財源の一般財源化。これも小泉元首相の命名。ネーミングの才能はなかなかのものです。
「改革の本丸」のその後は周知のとおり。拙速な対応のために、地方や中山間地の郵便局ネットワークの機能が低下。都市部の郵便局は4分社化の影響で窓口サービスが混乱。「国民生活の利便性が高まる」と説明していた小泉元首相の公約は実現していません。
「改革の一里塚」は紆余曲折のうえ、今国会で体裁は整いました。ところが、一般財源化されたはずの財源は新設された「地域活性化・公共投資臨時交付金」に名前を変えて、大半が道路や公共事業に投入されます。これまた看板倒れ。公約は実質的には実現していません。
「公約違反なんて大したことない」と言った小泉元首相の言葉の重みが今さらながら伝わってきます。
高度成長期を終え、既得権益の弊害が顕著になった1980年代後半、「改革は不可欠」という認識が広がりました。以来、1990年代には多くの改革政党が誕生しました。野党の流れは民主党に収斂し、与党である自民党も改革を唱えるようになりました。改革派を自称する政治家は与野党を問わずたくさんいます。
原点に立ち返れば、「改革の本丸」は税金や社会保険料の無駄遣いを根絶することです。無駄遣いの温床となっている「鉄のトライアングル」と呼ばれる政官業の癒着と既得権益を打破することです。
麻生首相は、就任以来4度の経済対策を発表し、3度の予算を編成しました。27日に発表される予算案は4度目です。
この間、当初予算を除く追加経済対策の真水(財政出動)の合計は26.3兆円。GDP(国内総生産)の5%を上回ります。米国が暗に世界各国に求めた財政出動規模はGDPの2%程度。5%超は大盤振る舞いです。
今回の補正予算案が「改革の本丸」の実現に資する内容ならば賛意を示します。しかし、そうでないならば「いい加減にしろ」と言うべきでしょう。
日本の財政事情は先進国の中で最悪。選挙の洗礼を受けていない首相が、これ以上財政状況を悪化させることは許されません。
できれば一刻も早く総選挙で民意を問うべきです。それがかなわないとすれば、少なくとも、補正予算案が日本の改革に資するか否か、将来世代にとって無責任な内容になっていないか否か、国会は十分に精査しなければなりません。
麻生首相は、昨年度1次補正、2次補正、今年度当初予算の「3段ロケット」による景気回復を唱えていましたが、今度は「4段ロケット」と悪乗り気味。しかし、4段目の推進力には疑問があります。
第1に、省エネ家電購入支援策の前提であるエコポイント制度。エコポイントを次の商品購入時の割引に使える仕組みですが、制度の詳細が決まるのは今夏以降。拙速の感は否めず、買い控えも懸念も台頭。
慌てた政府は、5月15日から暫定的にエコポイント制度をスタートさせることを発表。しかし、これは別の意味で大問題。補正予算案の閣議決定、国会提出前に、その内容に関わる制度の暫定的スタートを発表したことは憲政の常道を逸脱。あいた口がふさがりません。
第2に、不動産購入資金を生前贈与される場合の贈与減税。こうした政策に伴って郊外開発が進むほど、各地域の中心市街地の資産価値が低下。しかも、郊外の緑地を切り拓くことは温暖化対策に逆行し、将来のC02吸収源(排出権)という資産を毀損します。
中心市街地への人口回帰、複数世代同居を促進するような政策に転換すべき局面にもかかわらず、的外れの印象を免れません。
第3に、今年に限り支給する3歳から5歳児に対する1人当り年3万6千円の子育て応援特別手当。民主党の中学生以下に1人当り月2万6千円、年31万2千円の恒久措置である子ども手当てと比べると、明らかに一時的かつ小規模。恒久措置には相応の財源が必要となりますが、「改革の本丸」を実現すれば十分に捻出可能。将来世代への投資を怠ると日本は衰退します。
第4に、国土交通省だけでも約2兆1千億円計上した公共事業費。同省の今年度当初予算の半分近くの規模です。総額1兆4千億円の「地域活性化・公共投資臨時交付金」も国直轄事業の地方負担金肩代わりという大義名分の下に、要するに公共事業に投入。旧態依然としたバラマキ公共事業への先祖返りです。
そもそも、日本の景気悪化は輸出激減が主因。輸出関連企業の受注減少、業績悪化、従業員解雇という事態に直接寄与する対策に財源を集中投下することが的確な対応です。贈与減税や公共事業に充てる財源があるならば、職業訓練や産業構造転換を進める政策に投入すべきでしょう。
4段目の性能を精査し、燃料(財源)の浪費とならないように留意が必要です。当初予算執行に半年近くかかるのですから、その間に十分議論すべきでしょう。拙速は禁物です。
補正予算案の提出に先立つ先週22日、大手新聞紙上で竹中元経済財政担当大臣が補正予算案に対する批判を早々と展開。「補正の悪循環が懸念される」という見出しでした。
竹中氏は3つの問題点を指摘。第1に補正予算案の「マクロ的な意味づけがわからない」としています。補正予算案が各省庁の案の「積み上げ」によって編成されたことを問題視し、需要管理政策としての「マクロ的な視点が完全に欠落している」と厳しい指摘です。
第2に、今のタイミングで補正予算案を編成する合理性がないこと、及び巨額の予算案を十分な精査もせずに慌てて編成したことを批判。
第3に、予算案に盛り込まれた政策が官僚依存で企画されたため、「極めて従来型で、メッセージ性を欠く」と一刀両断。つまり、日本をどういう方向に誘導しようとしているのかが不明確で、予算案の内容も成長力を高めるものになっていないとしています。
そのうえで、総選挙後にさらに補正予算案が編成されることを予想。無定見で経済効果の脆弱な財政出動を繰り返すことによって、1990年代に経験した経済悪化と財政悪化の悪循環に陥り、再び「失われた10年」に向かうと警告しています。
与党の元大臣である竹中氏が補正予算案の正当性と有効性に疑義を呈したことは重い意味があります。
しかし、小泉政権も、経済成長の障害である既得権益打破には至らず、社会保障費や勤労者所得の抑制、超金融緩和に伴うバブルによって景気を維持していたに過ぎません。竹中氏にはその点の総括も期待したいと思います。そうであってこそ、今回の指摘の説得性が得られます。
IMF(国際通貨基金)による今年の日本の実質経済成長率予測はマイナス6.2%。ようやく下方修正される政府見通しのマイナス3.3%は甘過ぎる予測です。しかも、下方修正に伴う歳入欠陥は補正予算案には反映されていないチグハグな対応です。
今年度国債発行額は当初予算33兆円、補正予算案11兆円の合計で44兆円。歳入欠陥分を加算すると50兆円超えは必至。
「世界一の借金王」を自負したのは故小渕元首相。竹中氏の指摘に敬意を評し、麻生首相には「悪循環を呼ぶ借金大魔王」の呼称を進呈します。
補正予算案の論点は明確かつ盛り沢山。新年度当初予算のような審議のタイムリミットはありません。徹底審議は不可避です。
(了)