あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。このメルマガも足かけ10年目に入りました。引き続き、政治経済の動きの深層をお伝えできるように努めます。ご愛読頂ければ幸いです。
2010年がスタート。今年は「失われた20年」に終止符を打ち、「日本再構築の10年」スタートの年です。
60年前の1950年は朝鮮戦争が勃発。東西冷戦のリスクが顕現化した年。隣接する日本は、西側にとってソ連、中国と対峙する最前線。日本の経済復興は西側の共通利益となり、1ドル360円の優遇された為替相場での貿易立国が保証されました。
50年前の1960年は日米安保条約締結の年。西側の盟主米国は、経済復興が軌道に乗った日本との安定的な軍事同盟を確立。軍事費負担を軽減された日本は公共事業を中心とした用途に財源を回し、経済成長を加速。
40年前の1970年は大阪万博の年。東京五輪(1964年)に続く万博開催は日本の経済成長がピーク期を迎えたことの象徴的イベント。北京五輪に続く上海万博を開催する今年の中国の姿と重なります。
そこから20年間が20世紀日本にとっての最盛期。1979年にはヴォーゲル博士の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が出版されました。
そして20年前の1990年は東西ドイツ統一の年。東西冷戦が終結し、西側にとって日本を特別扱いする理由が明示的に消失。しかし、日本経済に対する調整の動きは円相場の大幅な切り上げが求められた1985年のプラザ合意から始まっていました。
1980年代後半のBIS規制(自己資本比率規制)、国際会計基準の本格的導入も、護送船団方式による間接金融資本主義、資産インフレを前提とした含み益依存経営という日本経済の特長に対する調整の一環と言えます。
その1990年から20年。日本は内外の環境変化に対応できずに「失われた20年」を甘受。この間、国家資本主義を推進した中国は今年GDP規模で世界第2位となります。EU(欧州連合)は政治統合が進み、昨年末には新大統領が誕生。ロシアもソ連崩壊から立ち直り、資源大国として再生。
2010年代はこうした世界の変化に対応する「日本再構築の10年」としなければなりません。遅ればせながら、日本を取り巻く政治的、経済的な環境変化を的確に認識し、国家経営の目標と戦略を明確化することが必要です。
さらに遡って150年前(1860年)。この年、日本人単独での初の太平洋横断となった咸臨丸の渡米。日本(幕府)海軍の軍艦として初の外国訪問であり、艦長は幕府海軍一期生の勝麟太郎(後の海舟)でした。
それから10年下って140年前(1870年)。平民に名字が許可されました。この年、明治維新の功労者のひとりである前島密翁が郵便制度創設を建議。翌年、官営の郵便事業が開始され、以来139年を経て今日に至っています。
この間、戦前までの日本の近代化のために貢献した第1期の郵政事業。戦後は地域社会や経済成長に寄与するインフラとしての役割を果たした第2期の郵政事業。集まった資金は財政投融資制度を通して政府に還流し、財政システムの重要なパーツとして機能しました。
しかし、1990年代以降の「失われた20年」。経済の低迷と社会の混迷の中、郵政事業にも新たな方向性を模索する必要性が認識されるようになりました。
そうした中で、紆余曲折を経て2005年に郵政民営化に関する法律が成立。郵政事業は2007年に株式会社化されて今日に至っています。
もっとも、民営化を検討する国会審議の過程では、重要な視点が軽視されたほか、株式会社化された後のガバナンスは多くの問題を内包することとなりました。今回の郵政改革は、そうした点について見直しを行うことが目的です。
5年前の国会審議の過程で軽視されたのは、郵政事業が担う公益性と地域社会への貢献という地域性の視点。民営化後のガバナンスにおいても多くの問題を抱え、経営の透明性、公正性等の視点からも、国民の皆さんの疑義を招く展開となりました。
今回の郵政改革は、それらの問題を是正し、創設以来、戦前、戦後に続く第3期の郵政事業のあり方、方向性を固める重要な仕事となります。
検討すべき課題は、郵政事業を担う日本郵政グループが、国民の利便性を高め、日本の再生に寄与し、公益性と地域性という役割を適切に担い、さらには民間企業との公平性にも配慮した株式会社として成り立つ「解」を導くという極めて難しい内容です。
第3期の郵政事業は、喩えて言えば電力会社やガス会社のようなイメージでしょうか。電力会社、ガス会社は民間企業ですが、公益事業を担っています。国民の皆さんに電力やガスを供給するのは政府の責務。その責務を民間企業である電力会社、ガス会社に担ってもらっている格好です。
国民の皆さんに郵便や金融へのアクセス権を保証するのも政府の責務。その責務を、株式会社として独立した事業体となった日本郵政グループに担ってもらうイメージです。
21世紀日本にとって、第3期の郵政事業がどのような役割を担うべきかを決めるのが今年の課題のひとつです。
郵政制度創設の建議から20年下った120年前は1890年。日本で初めて普通選挙が行われました。
120年前と言えば、干支(えと)でちょうどふた回り前。干支は十干十二支(じっかんじゅうにし)の組み合わせで決まります。
十干は「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」、十二支は「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」。したがって、「十」と「十二」の最小公倍数の「六十」でひと回り。六十歳になると自分が生まれた年の干支に戻るので「還暦」と言います。
12年でひと回りは「十二支」のことであり、十干十二支の「干支」は60年でひと回り。だから1890年は干支でふた回り前となります。このメルマガの183号と205号でも干支の話を紹介しています。ご興味があればホームページのバックナンバーをご覧ください。
干支は十干の「甲」と十二支の「子」の組み合わせである「甲子」がスタート。現在は1984年の「甲子」から始まった60年循環の中にあります。その60年前、1924年の「甲子」の年に建設されたのが甲子園球場です。
昨年の干支は「己丑(つちのとうし)」。暦によれば「新しい秩序が生まれる」という含意。奇遇なことですが、まさしくそういう年となりました。しかし、新政権が誕生してもすぐに様々な問題が解決されて順風満帆というわけにはいきません。
そして今年の干支は「庚寅(かのえとら)」。「庚」は「更(あらた)まる」という意味で、草木の生長が行き詰まり、新たなかたちに変化する状態を示します。「寅」は「動く」という意味があり、春が来て草木が芽吹き始める状態を表します。
今年は「動いて更まる」の含意。「これまでのやり方が行き詰まり、動いてかたちを変えていく」ということのようです。「失われた20年」を生み出した日本の構造問題を解決するには、もはや今までのやり方では限界。動いてかたちを変えてこそ「日本再構築の10年」となります。
政界だけでなく、財界、官界、学界、あらゆる分野の皆さんが頭を柔らかくして、動いてかたちを変えていく。国民全員がそういう姿勢で臨んでこそ、日本の新たな展開が生まれます。
第173通常国会の開会日は18日に決定。「日本再構築の10年」スタートに資する論戦に努め、職責を果たしたいと思います。
因みに、国会開会は旧憲法下では92回開催され、現憲法下では173回目になります。頑張ります。
(了)