通常国会が始まりました。有意義な国会論戦に腐心し、経済の再生、国民生活の安定に全力を傾注したいと思います。日本の改革は、今年がいよいよ正念場です。
1月8日の米紙ニューヨーク・タイムズの特集記事のタイトルは「中国を空売りする」。有力ヘッジファンドの設立者であるジェームズ・シャノス氏が中国のバブル崩壊を予測しています。
昨年12月5日、中国共産党、中国政府、中国人民銀行等の政策当局が翌年のマクロ経済政策の基本方針を話し合う中央経済工作会議が開催されました。リーマンショックが起きた直後の一昨年の工作会議では、財政拡大と金融緩和を行う基本方針を決定。一方、昨年の工作会議では不動産バブルやインフレ懸念について議論。バブル経済に警戒を示しつつも、実際に決定された方針は金融緩和の継続でした。
具体的には2010年の銀行貸出の年間増加額目標を7兆5000億元(約100兆円)に設定。2009年の5兆元の1.5倍、国内総生産(GDP)の約2割に相当する規模です。この目標が実現すると、今年末の銀行貸出残高は47兆元。1年間に25%以上増加します。
工作会議では、中国人民銀行がバブル経済を懸念して年間増加額目標を前年並み(5兆元)とすることを主張した模様ですが、共産党と政府が押し切った格好です。
中国政府は昨年9月、バブルの影響で過熱気味の鉄鋼、セメントなど8業種を「過剰生産・重複建設業種」と位置づけ、土地供給や銀行貸出を管理。また、投機的な不動産購入も抑制する姿勢を打ち出しました。
その姿勢をわずか3ヶ月で転換した工作会議の結果ですが、バブル崩壊よりも景気減速に対する懸念の方が勝り、巧みにバブルを維持していくことを決定したと言えます。
こうした中での今回のシャノス氏の予測。「中国経済はバブルの持続よりも崩壊に向かっている」「中国の不動産バブルはドバイの1000倍以上」「中国では販売不可能な量の製品を作り続けている」「政府発表の好調な経済指標も捏造」と一刀両断し、バブル崩壊を見越して中国株の空売りを宣言。
シャノス氏は過去に大規模な空売りで実績をあげているだけに、気になる言動です。米紙も「中国株式会社という複合企業の神話の崩壊があり得る」というトーンで結んでいます。中国の動向には要注意です。
1月15日、中国人民銀行が2009年末の外貨準備高を発表。2兆3992億ドルはもちろん世界一。第2位日本(1兆493億ドル)の約2.4倍です。
10年前の1999年末は日本の2880億ドルに対して中国は1546億ドル。日本が3.6倍に増える間に中国は15.5倍に膨張しました。
貿易黒字の影響で人民元は値上がりするのが経済原則。しかし、中国政府は元安を維持するために大量の元売りドル買い介入を断続的に実施。介入によって一段と外貨が蓄積されています。
貿易黒字で外貨が積み上がり、輸出を下支えするための元売りドル買い介入でさらに外貨が積み上がるという外貨蓄積のスパイラル状態です。
しかも、介入によって市場に売却された元を吸収せずに放置。いわゆる非不胎化介入です。その結果、市場に過剰流動性が蓄積され、金融緩和と同じ効果が発現。
これらの一連の動きは、昨年末の外貨準備高の前年比増加率が23.3%、通貨供給量(マネーサプライ)が同27.7%、銀行貸出残高が同31.7%というデータが端的に示しています。
金融緩和の影響は不動産価格に波及。昨年末の前年比上昇率は7.8%。中国全土の平均値であるため、外貨準備、マネーサプライ、銀行貸出ほどではありませんが、北京、上海などの大都市中心では平均でも3割程度、優良物件は5割近く値上がりしているようです。
中国の現状は1980年代の日本と極めて酷似。中国は日本の成功モデルを参考にしているとも言われています。
しかし、日本ではその後バブルが崩壊し、今なお余韻が残っています。中国はどうなるでしょうか。
日本との違いは、非常に所得の低い層が依然として10億人近く存在すること。旺盛な購買意欲と上昇志向が経済を牽引し、低賃金労働力がコスト面での産業の国際競争力を支えています。
また、経済発展が生み出す中間層が欧米的な意味での政治的民主化を促すこともなく、欧米諸国の経験則が当てはまらないようです。そうした中で、軍事費は過去20年間平均で年率約15%増大しています。
世界の覇権は19世紀の英国、20世紀の米国から、21世紀の中国にシフトしつつあるように見えます。米国の同盟国であり、中国の隣国である日本。巧みな国家運営が不可欠です。
中国が金融バブルを経済政策に活用しようとする一方で、米国では異なる方向性を模索する動きが始まっています。
先週の1月21日、オバマ米大統領が新たな金融規制案を発表。タイミングが唐突だっただけでなく、内容もなかなか衝撃的でした。
商業銀行にヘッジファンド等への投資を禁止し、自己勘定によるハイリスク商品への投資も制限。また、投資銀行を含む金融機関全般に対して、市場借入(負債)に上限を設けるという厳しいものです。
詳細は必ずしも明らかではありませんが、今後の具体化の展開によっては、世界の金融産業の方向性は大転換。近代的な金融システムが発展し始めて約100年になりますが、今回は3回目の節目となるかもしれません。
19世紀の産業革命に呼応して、欧米諸国では金融資本主義が勃興。しかし、20世紀に入り、1929年の大恐慌で1回目の節目を迎えます。
株価大暴落によって金融システムが崩壊の危機に瀕したことから、米国では銀行と証券の業務分離を定めるグラススティーガル法が成立。以後、銀証分離が世界の潮流となっていきました。
その間、最初に不況対策のための経済政策ツールとなったのが財政政策。ケインズ政策と言っても良いでしょう。
しかし、財政支出の既得権益化、財政赤字の拡大等によって財政政策の効果と余力に限界が見え始めると、経済政策ツールは金融政策にシフト。いわゆるマネタリズムです。
こうした展開は1970年代から顕現化し、1980年代以降は先進各国の潮流となりました。この間、過剰流動性が徐々に世界に蓄積され、キャピタルゲイン狙いで「無から有を生む」金融ビジネスが拡大。実質的な総合金融グループが次々と誕生して銀証分離が形骸化する中、1999年、グラススティーガル法は廃止されました。これが2回目の節目です。
21世紀に入り、資金(負債)を調達してデリバティブ等の高度な金融証券取引で莫大な利益を上げる投資家や金融機関が続出。やがて、今回の金融危機の直接的な引き金となったCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)取引にもつながっていきます。
そして2008年のリーマンショック。「無から有を生む」金融ビジネスが挫折し、世界各国の多くの人々が影響を受けました。それを受けての今回のオバマ大統領の新金融規制案です。
しかし、過剰流動性、金融政策依存の世界各国の経済政策の基本的な構造は変わっていません。しかも、21世紀の新たな経済大国として登場した中国は、欧米諸国以上のバブル政策を指向しています。
中国と米国。地政学的にも、外交的にも、経済的にも、2つの超大国の狭間に位置する日本。日本の舵取りを適切に行うためには、日本を取り巻く情勢を冷徹に分析、認識することが大前提です。
(了)