政治経済レポート:OKマガジン(Vol.210)2010.2.22


鳩山政権発足後5か月が経過。衆議院での来年度当初予算の審議も佳境を迎えています。衆議院通過後は、参議院での審議と並行して、財政の中期フレーム策定、成長戦略ブラッシュアップ、行政改革等への取り組みを加速させる局面に入ります。


1.課題解決国家

地球温暖化、資源枯渇等への対策が世界的な課題となる中、21世紀日本の目指すべきステーツモデルは「課題解決国家」。世界を先導するとともに、課題解決の技術とノウハウは21世紀日本の成長にとって重要な要素です。

例えば、レアメタル(希少金属)、レアアース(希土類)の枯渇、偏在への対策。

レアメタルは、埋蔵量が少ないもの、精錬が困難なものに分類され、国内的にはリチウム、コバルト等の31種類が指定されています。そのうちの1種類が、個別に分離が困難な17元素から構成されるレアアース。

レアメタルは自動車、携帯電話、太陽電池など、ハイテク製品を中心に広範な用途で使われています。今後、新興国でも需要が増加することから、将来的な資源枯渇は必至。

また、レアアースの埋蔵はほぼ100%中国、レアメタルも南アフリカ、ロシアなどに偏在しており、資源の安定確保に懸念があります。

資源の枯渇と偏在は世界共通の問題ですが、ハイテク製品を輸出の主力とする日本にとっては一層深刻な課題です。

資源の権益確保や備蓄といった直接的対策も必要ですが、それでは世界的な枯渇は解決できません。そこで、日本が取り組むべきことは代替技術開発。

代替技術は、レアメタルの使用量を減らす技術、レアメタルを使わないで同様の機能を実現する技術に分類されます。炭素や有機高分子などを駆使するナノテクノロジー(超微細技術)や埋蔵量が豊富なノーマルメタル(亜鉛、鉄、銅など)を活用してレアメタルの使用量を減らしたり、同様の機能を実現することが期待されます。

また、日本の実情に即した知恵を絞ることも重要です。それは、使用済みのハイテク製品に含まれるレアアース等の「都市鉱山」対策。

日本の「都市鉱山」に「埋蔵」されているレアアース等は、世界全体の埋蔵量の1割に相当するという試算もあります。現在はそれらの大半が活用されずに廃棄されていることから、抽出技術の開発とともに、再利用のために使用済み製品を回収する社会的な仕組みを早急に確立しなければなりません。

こうした技術やノウハウは世界に「輸出」され、日本の成長の原動力となります。

2.一石三鳥

2月6日、北極圏のイカルイット(カナダ)で開催されたG7(先進7か国財務大臣・中央銀行総裁会議)に財務大臣に随行して行ってきました。現地は氷点下約20度。もっとも、温暖化の影響で平年より10度以上暖かいということでした。

温暖化対策は世界共通の課題。その対策を先導することは、結果的に日本の成長の原動力となります。

「温暖化ガス25%削減」という目標を消極的に考えず、発想の転換が必要です。例えば、目標実現のために2030年に国内はEV(電気自動車)とFCV(燃料電池自動車)だけにすることを目指します。つまり「ガソリン車ゼロ国家」です。

そのためには、EV、FCVの実用化、低価格化、大量生産のために、政府が技術開発と産業構造転換の支援を行うことは国家戦略として当然。

日本のEV、FCVは結果的に世界のデファクトスタンダードとなり、中国、韓国、インド等からのガソリン車輸入も行わないことから、貿易収支にもプラス。課題解決に向けた国家戦略が、結果的に日本の成長に寄与します。

ところで、日本が1年間に支払う原油輸入代は約30兆円。今後、新興国の人口増加、経済成長によって原油需給が逼迫して価格が上昇することは必至。1割上昇で日本から3兆円の資金流出となります。

自動車のEV、FCV化や自然エネルギー活用等によって原油輸入を抑制すれば、その分、結果的に資金の国外流出抑制に寄与。他の分野の投資に活用できます。

さらに、新興国にとっても温暖化対策は必須。拡大する消費の中で、環境対策を講じた製品需要も増加するでしょう。その際、日本の温暖化対策の技術、ノウハウ、製品は重要な「輸出財」となります。

因みに、2030年までに世界の新興国の中間層人口は約10億人増加すると予測されています。そのうちの1割の消費需要を日本の技術、ノウハウ、製品に結びつける国家戦略を実現すれば、「1億人分」つまり「日本丸ごと」分の新規需要を獲得することになります。

温暖化対策に注力することは、貿易収支改善、資金流出抑制、新興国需要獲得という一石三鳥。発想の転換で積極的な国家戦略を推進していくことが必要です。

3.目の前にある「内需」

温暖化対策で新興国の需要を獲得するという景気のいい話ですが、「外需」だけでなく「内需」にも目を向けて発想の転換を図る必要があります。

経済は需要と供給から成り立っています。当たり前の話ですが、その当たり前のことをよく考えてみると、日本の問題点がよく分かります。

需要の増えるところに企業や産業が育ち、新たな供給が生まれます。「需要が増えるところなんてないから困ってるんだよ」という指摘が聞こえてきそうですが、本当にそうでしょうか。

GDP(国内総生産)を分解すると、「政府消費」という項目だけは一貫して増加しています。「政府消費」という需要が増え続けていると言えます。

「政府消費」というと政府が無駄遣いしているように聞こえますが、その中には、公務員給与や政府支出による医療費等が含まれています。そして、増加の主因は医療費です。

つまり、医療費という需要は一貫して増え続けており、ここには企業や産業が育ち、新たな供給が生まれるのが普通です。企業や産業が育てば雇用も増加し、経済の牽引役として機能します。

ところが、実際にはそうなっていないところが日本の問題点です。どうしてでしょうか。

それは、増え続ける医療費という需要の行き着く先が、日本の企業や産業ではなく、外国の企業や産業が中心だからです。

日本企業が開発する薬、医療機器、医療サービスを使用することがなかなか認可されず、そのために外国企業の製品やサービスに向かっているという構図です。

こうした事態を招いている原因のひとつが医薬品医療機器総合機構(PMDA)という厚生労働省所管の独立行政法人。新薬や新しい医療機器の治験、認可を行う組織ですが、その対応があまりにも遅く、長く、かつ認可申請者に治験コストをかけさせすぎるという風評が定着しています。

外国で使用されているものと同様の製品でもなかなか認可が下りず(外国で使用されている抗癌剤が日本では使えないという事例がよく紹介されます)、治験を行っている間に市場競争力を失い、結果的に市場から撤退せざるを得ないと嘆いている日本企業関係者がたくさんいます。

こうした事態が長期に亘って続いているために、とうとう日本はメディカルツーリズムで国民が外国に医療を受けに行く国になってしまいました。経済的に言えば、国内の需要が外国に流出しているという構図です。

こうした現象を是正することも、重要な国家戦略であり、成長戦略です。医療需要を国内で受け止めることのできる医療産業と医療政策を実現すれば、メディカルツーリズムを逆転させる(外国人が日本に医療を受けに来る)ことも可能です。

病院整備や、医師、看護師の待遇充実も同じ問題です。需要を受け止めるだけの供給体制になっていないために、医師や看護師の労働環境悪化、マンパワー不足という問題につながっています。また、医療だけでなく、介護にも類似の構造が指摘できます。

温暖化対策による新興国需要の獲得という「外需」だけでなく、目の前にある「内需」にも目を向けることが必要です。

(了)


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