4月に入りましたが、あまりの多忙さにメルマガも遅れ気味。月2回のペースで作成していますが、今月は前半分が危うく後半にずれ込むところでした。何とか滑り込みの15日付けでお届けします。まずは、株価の動向からです。
4月第1週までの8週間、株価(日経平均)は週間ベースで上昇を続けました。第2週はバブル時代の1988年以来となる9週連騰を期待しましたが小反落。残念でした。
とは言え、その後も株価は上昇基調を継続。今後、昨年度2次補正予算、今年度当初予算の執行も本格化するうえ、新興国向けを中心とした輸出の回復もあり、景気の二番底は回避したようです。
ところで、株価の予測手法はいろいろあります。例えば罫線分析。個人的には日足、30日移動平均線、90日移動平均線を参考にしていますが、高い水準から日足、30日線、90日線と並ぶ好環境が整いました。
90日線も上昇傾向がハッキリしてきましたので、今後2ヶ月近い下落局面を迎えるような大きなマイナスイベントがない限り、罫線分析上の株価は堅調です。
投資家の不安心理を計る参考データとして珍重されているのが恐怖指数(VIX指数)。VIXはVolatility Indexの略称。シカゴオプション取引所(CBOE)がS&P500を対象とするオプション取引のボラティリティを参考にして算出し、向こう30日間の株価の変動可能性を示します。
市場が平穏な時には10~20程度の水準ですが、リーマンショック直後は80まで上昇。市場の緊張度が極限まで高まりました。そのVIX指数が最近では20を下回り、これも株価の安心材料です。因みに、1997年のアジア通貨危機、2001年の同時多発テロの時には、いずれも40前後で推移。
一方、気になるのは実態経済。そこで、景気動向指数を確認してみると、これも改善しています。
景気動向指数にはCI(Composite Indexes)とDI(Diffusion Indexes)の2つがあります。CIは景気変動の勢い、DIは景気変動の波及効果を示すと言われています。
CIのうち、先行指標、一致指数は昨年前半から、遅行指数も昨年半ばから上昇傾向が継続。50を上回ると景気拡大局面を表すDIも堅調。最も反応の遅い遅行指数も昨年末から50を上回り始めました。
株価、景気のマインドをさらに押し上げるために必要なのは、今後の日本経済に対する安心感。そのためには、財政健全化に対する市場の信頼感向上がポイントです。
来年度以降の予算編成、財政健全化に向けて、政府が本格的な予算・行政改革の動きを示すことができれば、市場環境がさらに好転する可能性が高いと言えます。
来年度の予算編成やその後の財政健全化に向けて気になるのが税収です。リーマンショック後の景気低迷を受けて、2009年度の税収は激減必至。
2009年度の国と地方の法人税収合計は9.7兆円の見通し。2008年度実績18.4兆円の半分近くに急減します。
過去のピークはバブル時代の1989年度の19兆円。2009年度はその約4分の1になるばかりか、1977年度8.7兆円以来32年ぶりの低水準です。
法人税は、年間の半分程度を途中で中間納付し、残る半分程度を合算して年度が終わってから納める仕組みになっています。したがって、中間納付が多すぎる時は、年度が終わってから欠損金として逆に還付されます。
2008年度はリーマンショックの影響が顕現化する前に中間納付。年度後半はリーマンショックの影響から業績が失速し、中間納付は過払い状態になる企業が急増しました。したがって、2009年度に入ってからの還付額は3兆円を超え、前年度に比べて倍増。
しかも、欠損金は最長で7年間繰り越すことができるので、今後の税収にも影響します。2008年度時点で翌期以降に繰り越した欠損金は90.8兆円に及びます。今年度以降の単年度の企業業績が回復しても、欠損金の繰越額が今後の税収を減少させます。
来年度以降の予算編成における歳入に対して、リーマンショックに伴う税収の影響が時間差で現れる、言わばタックスラグです。
また、リーマンショック後に早期退職等のリストラ経費を計上した企業も少なくありません。こうした経費の処理も利益を圧縮して税収減につながります。
景気が回復しても、税収が思ったほど増加せず、当面の財政健全化のハードルになる蓋然性が高いと言えます。その場合は、国債発行につながり、景気回復と相俟って金利が上昇。それがまた景気回復の制約となるという悩ましい展開もありえます。
しかも、日本の法人税の実効税率(40.69%)が諸外国に比べて相対的に高く、法人税率引き下げも政策課題として浮上する可能性があります。法人税収の動向は予断を許しません。
税収動向は不透明ということになると、財政政策にも限界があります。そこで、税収回復がハッキリしてくるまでの今年から来年にかけて、金融政策に頑張ってほしいという意見が出てくるのも理解できます。
そこで4月9日、鳩山首相、菅財務大臣が白川日銀総裁と意見交換。昨年12月以来の意見交換でしたが、菅大臣は、今後は3か月に1度程度の頻度で意見交換を行うことを表明。財政政策を担当する政府と金融政策を担当する日銀が意見交換をすることは望ましいことです。
昨年の菅大臣のデフレ宣言、その後の日銀のデフレ認定、そして「マイナスのインフレ率は容認しない」「1%程度が中心」という政策決定会合の意思表示。なかなかの連携プレーでした。
以後、株価は上昇基調に転じました。もちろん、実態経済の好転も影響していますが、財政政策と金融政策が協調してデフレ対策と景気対策に取り組む姿勢自体が、マーケットに安心感を与えます。
日銀の次回政策決定会合は4月30日。半年に1度の「経済・物価情勢の展望」が公表されます。一般には馴染みの薄い資料ですが、市場関係者や政策関係者の間では「展望レポート」と称してその内容に関心が集まります。
前回の「展望レポート」公表は昨年11月2日。その時点での政策委員の消費者物価指数(CPI)の大勢見通しは2010年度がマイナス0.7%からマイナス0.9%、2011年度がマイナス0.4%からマイナス0.7%となっていました。今回、この見通しの修正値がとくに注目されます。
「マイナスのインフレ率は容認しない」「1%程度が中心」としたこととの整合性を考えると、現在の金融政策が効果を発揮すると想定すれば来年、遅くとも再来年あたりはプラスの見通しとするのが整合的。
一方、引き続きマイナスと見通すならば、政策当局として今後どのような「構想力」で金融政策を運営するのかがポイントです。政策決定会合を構成する9人の審議委員には大きな責任があり、それぞれの見通しとそれぞれの政策的意思の整合性が問われます。
日本経済に内在する構造問題、日本経済を取り巻く世界の情勢を鑑みると、デフレ脱却が簡単にできるとは思えません。個人的には、来年のCPIは引き続きマイナス、再来年は政策効果の浸透も期待して若干のプラスという線が妥当なところでしょう。
しかし、来年もマイナスと見通すならば、これから半年、あるいは1年の金融政策の内容が重要性を増します。
従来の発想や理論に拘泥することなく、現実を十分に分析、認識したうえで、金融政策のフロンティアとも呼べる新たな手法を開拓する「構想力」が期待されます。
もちろん、財政政策も同様です。財政政策と金融政策から構成されるマクロ経済政策ばかりでなく、成長戦略や医療、農業等の個別政策も然り。さらに、企業家や有識者と言われる人々の「構想力」も、従来の常識に拘泥していては眼前の問題を解決できないかもしれません。
自分が「正しい」と思っている過去の常識、あるいは平時の常識が、今の日本の状況を改善させるうえでは、必ずしも「正しくない」、あるいは、これまでの常識は今の非常識かもしれないという柔軟な「思考力」が要求される局面です。
「思考力」と「構想力」。今の経済情勢の下で政策や経営を担うには、このふたつが不可欠です。自分自身も自問自答しながら職務に精励します。
(了)