参議院選挙は改選議席を10議席下回る44議席という結果になりました。政府・与党には、結果を真摯に受け止め、有権者の皆さんの意思表示の「意味」をよく考えることが求められています。同時に、眼前の政策課題自体は何ら変わりがないことから、政府・与党は課題解決に向けて粛々と職務を遂行しなければなりません。僕自身も引き続き全力で職責を全うします。
参議院選挙が始まる直前、カナダのトロントでG8、G20が開かれました。1975年にフランスのランブイエで初めて開催された先進国首脳会議。米国、イギリス、西ドイツ、フランス、イタリア、日本の6か国で始まりましたが、翌年にはカナダを加えてG7、1998年にはロシアが参加してG8に拡大。
さらに今回から会議の中心はG8からG20にシフト。米国もG8よりも中国が参加するG20を重視しており、国際社会は完全に新時代に移行しました。
そもそも、初めてG20がワシントンで開かれたのは1年7か月前。リーマンショック後の世界同時不況への対応を議論するためでした。
ブッシュ米大統領(当時)の提唱で緊急に召集されたG20は、従来のG8に中国、インド、ブラジル等、経済的な新興国を加えた枠組み。ロシアもそういう意味では新興国の一員。先進国としては、世界同時不況の克服には新興国の協力が不可欠と考えた故です。
先進国が新興国に期待したことはふたつ。ひとつは、世界経済の牽引役としての新興国の需要。もうひとつは、先進国の財政赤字をファイナンスする新興国の経常黒字。現在までのところ、新興国は期待された役割を果たしつつあります。
この間、日米欧各国は大規模な財政出動によって景気対策を実施。例外なく財政赤字が拡大しており、中でもPIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)諸国を抱える欧州の事態は深刻。その懸念はギリシャで顕現化しました。
こうした中での今回のG8とG20。欧州諸国は財政健全化の重要性を主張する一方、米国は経済成長を優先。日本は財政健全化と経済成長の両立を模索。
日米欧の主張が異なるG20の帰趨は、中国を含む新興国の主張次第。新興国がG20のキャスティングボートを握っています。
力学上、優位なポジションにあることを理解している中国。G8に加わってG9の一員となるべきとの提案に全く興味を示さず、中国外務省報道官は「中国はG8ではなくG20のメンバーだ」と発言。新興国の代表としての地位を意識しています。
新時代に入った国際社会の中で、新興国の代表としての発言力強化を目指す中国の動静から目が離せません。
上述のように、G8よりも中国が参加するG20の重要性が高まっています。とくに、中国による米国債購入を期待する米国のG20重視の姿勢が顕著です。
米国と同様に、財政ファイナンスの観点から日本と中国の関係も新たな局面を迎えそうです。
今年1~5月の中国による日本国債の買越額は1兆2762億円。過去最高だった2005年(2538億円)の約5倍と激増しています。
貿易黒字に加え、本年入り後は中国人民銀行が為替介入を断続的に行い、外貨準備が急増。3月末残高は2兆4471億ドルに達し、その運用に腐心していることが背景にあります。
急速な輸出拡大、経済成長に伴って膨張する外貨準備を、中国政府は従来ドルに偏った運用を行ってきました。
しかし、リーマンショックによる金融危機を契機にリスク分散のために運用通貨を多様化。具体的にはユーロでの運用比率を高めました。
ところが、昨年秋以降のギリシャ危機に端を発した欧州ソブリン債の価格下落、ユーロ安で購入ユーロ資産に多額の評価損が発生。そこで、日本円、日本国債に着目し、さらに運用先を分散しているものと考えられます。
日本国債の外国人保有比率は4.6%(今年3月末)にとどまっており、中国による日本国債購入は国債の安定消化と金利上昇抑制というプラス効果が期待できます。
一方、外国人保有比率の低さは日本の財政不安懸念を抑制していた面があります。つまり、国内資金で財政赤字がファイナンスされている限りは財政破綻の懸念はないというロジックです。
したがって、外国人保有比率の上昇は財政不安懸念を高めることにつながりかねないというマイナス要素もあります。
また、日本円、日本国債への外国人投資の増加は中長期的な円高につながり、日本の輸出にとってはマイナスです。
中国にとっては、外貨準備による外国債投資は運用先であるG8諸国からの元切り上げ要求を抑止する効果もあります。
今後のG20は、中国とG8諸国との虚々実々の駆け引き、複雑な利害調整の場となりますが、中国以外の新興国のスタンスも全体の力学を左右します。
ところで、G8、G20直後、世界各国の株価が低迷しました。先進国を中心に財政再建の方向性が確認されたことから、「緊縮財政による景気下押し」による「国債発行抑制に伴う金利低下」という「ストーリー」が浸透し、株安、債券高という展開になりました。
マーケットは常に売買を活発化させるための「ストーリー」を創造します。もちろん、その「ストーリー」には論理的整合性が伴うことが必要ですが、要するに「売買のためのストーリー」です。
今回の「ストーリー」は2つの点でやや無理がありました。第1に、リーマンショック後の世界不況からの脱出過程はまだ続いています。各国が景気対策にさらに注力することは当然であり、直ちに緊縮財政ということにはなりません。
第2に、国債発行抑制も急には進みません。景気対策の手を緩めるわけにいかず、また予算構造を短期間で急激に変えることは容易ではありません。日本が典型例です。したがって、G8、G20直後の急速な金利低下はやや行き過ぎと言えます。
「ストーリー」の背後にある「シナリオ」は、NYダウで1万ドル台、日経平均で1万円台の「壁」のブレークスルーが望めない中、水準調整(下押し)したうえで、再び株価の上伸局面を作るということでしょう。
とは言え、世界経済、各国の株価や財政状況に不安要素が山積していることは否定できません。また、国ごとの固有の問題も抱えています。
世界経済の牽引役である中国の株価は、年初来3割近い下落。日米欧の先進各国とは株価下落の事情が異なります。中国経済はバブル崩壊がジワジワと進んでいると見るべきかもしれません。
日本にとっては円の独歩高が懸念材料。マーケットが創造した「ストーリー」によって欧米各国の金利も低下。相対的に日米や日欧の金利差が縮小し、ドルやユーロを売って円を買う動きが加速。対ドルでは7ヶ月振りの86円台、対ユーロでは実に8年7ヶ月振りの107円台まで上昇しました。
中国経済の失速と過度の円高は日本の輸出にダブルパンチ。マーケットの「ストーリー」や「シナリオ」にも影響を与えるかもしれません。注視が必要です。
(了)