政治経済レポート:OKマガジン(Vol.223)2010.9.11


14日は民主党代表選挙。自民党も執行部人事が行われましたので、二大政党双方が新しい体制となり、国会も仕切り直しです。国内で政党間、政党内の権力闘争をしている場合ではありません。与野党が、議論すべきは議論し、協調すべきは協調し、日本を取り巻く国際環境の変化に的確に対応していくことが政治の責務です。


1.海上民兵

先週7日、尖閣諸島の日本領海内で、海上保安庁の巡視船と中国の底引き網業船が接触。巡視船の停船命令に従わなかったうえに、さらに別の巡視船に接近して接触。海上保安庁は漁船の中国人船長を公務執行妨害で逮捕しました。

その後、日中双方が外交ルートを通じて抗議を行っていますが、今後の展開は予断を許しません。

今年第2四半期(4月から6月)のGDP(国内総生産)規模は日中逆転。国際社会における経済的プレゼンスを高めた中国は、主権に絡む問題でも一段と強行な姿勢を明確にしつつあります。

中国は1970年代から尖閣諸島に対する領有権を主張し始めました。国際社会が大陸棚資源に着目し始めた時期と一致します。

1992年には領海法を定めて尖閣諸島を「中国の領土」と明記。以後、調査船、漁船等を最初は散発的、徐々に断続的に周辺海域に送り込み、着々と既成事実を積み上げています。

経済的躍進が明確になった2000年代後半以降は、中国海軍の艦艇も姿を見せるようになりました。長期に亘る極めて計画的、戦略的な動きと言えます。

最近では2008年11月に駆逐艦等4隻、2009年6月には同5隻が尖閣諸島から沖縄周辺海域を抜けて太平洋方面に航行。

2010年に入ると、さらに示威行動が加速。3月は駆逐艦等6隻、4月は潜水艦を含む同10隻、7月は同2隻が同様に沖縄周辺海域を航行。

また、4月には尖閣諸島北方で中国軍ヘリコプターが海上自衛隊護衛艦に接近。そして、今回の事態です。

昨年3月、南シナ海で米海軍艦艇の調査活動が中国漁船によって妨害されました。米国防総省は、中国漁船には軍人または軍事訓練を受けた海上民兵が乗船しているケースが多いと分析しています。

もっとも、中国側から見れば米海軍艦艇が南シナ海で活動をすること自体が脅威。尖閣諸島についても、相手の立場になって考えると見方も変わります。

だからこそ、国家には明確な主張が必要であり、そのうえで計画的、戦略的に行動していくことが求められます。

尖閣諸島については台湾も領有権を主張しており、中台関係が改善する中、台湾の動向も全体の力学に影響を与えます。

日本外交は覚醒しなければなりません。

2.広域鉄道網計画

先週9日、日本とインドはEPA(経済連携協定)締結で合意しました。日本としては12件目のEPA締結です。

世界の通商交渉は、WTO(世界貿易機構)を中心とする多角間交渉、FTA(自由貿易協定)、EPAを駆使した二国間交渉のダブルトラックで動いています。

もっとも、多角間交渉は難航を極め、実際にはFTA、EPAによる経済圏の囲い混み競争の時代です。完全に出遅れている日本としては、FTA、EPA推進を図る貿易戦略が不可欠です。

中でも重要な相手国はASEAN(東南アジア諸国連合)諸国。しかし、中国や韓国に先行されているうえ、日本の貿易戦略に影響を与える気になる動きがあります。

それは中国とASEAN諸国を結ぶ総延長2万キロメートルの広域鉄道網計画。陸路で繋がる地政学上の優位を活かした中国のASEAN囲い込み戦略です。

ASEAN諸国の広域鉄道網計画は1995年に基本合意し、徐々に建設が進んでいます。これを中国国内鉄道とリンクさせる計画です。

実現すれば、鉄道網の北の拠点は中国昆明、南の拠点はシンガポール。ハノイとホーチミン(ベトナム)、プノンペン(カンボジア)、ヤンゴン(ミャンマー)、ヴィエンチャン(ラオス)、バンコク(タイ)、クアラルンプール(マレーシア)の8カ国主要都市を結び、インドシナ半島とマレー半島の全域をカバーします。

そのために、中国はASEAN諸国の線路軌(大半が幅1000ミリメートル)を中国の標準軌(幅1435ミリメートル)に統一することを提案。見返りに、鉄道網建設の資金、技術支援を申し出ています。

標準軌で統一されれば中国の高速鉄道の乗り入れも可能となりますが、その高速鉄道に日本の新幹線技術が活用されているのは皮肉なことです。

ASEAN諸国では、鉄道網整備の観点から肯定的な意見がある一方、有事の際の中国による軍事転用を指摘する向きもあります。

ASEAN諸国は中国との間で南シナ海の領有権問題を抱えており、海陸両面からの中国の覇権拡大を懸念しています。

こうした状況下、日本は早急にASEAN諸国とFTA、EPAを進めるとともに、鉄道網整備に対する日本のスタンスを示すことが必要です。

3.資源ナショナリズム外交

先月28日、北京で日中閣僚経済対話が行われました。中国は、日本が求めたレアメタル(希少金属)、レアアース(希土類)の輸出規制緩和に対して、環境保護、資源枯渇、安全保障上の理由を提示して拒否。予想されたとおりの中国の資源ナショナリズム外交です。

自動車、ハイテク機器等、日本の製造業に不可欠のレアメタル、レアアースの輸出規制をカードにして、日本から経済的、技術的譲歩を引き出そうとする戦術です。

輸出規制を図るばかりでなく、中国は資源の輸入拡大も企図。例えば、環境負荷が小さい液化天然ガス(LNG)輸入を2020年に現在の約8倍(4600万トン)に拡大することを計画。最大輸入国である日本(年間約6600万トン輸入)の資源確保を脅かします。

日本は、OPEC(石油輸出国機構)の石油、ロシアの天然ガス等、過去にも資源ナショナリズム外交と対峙してきました。今後も、国家戦略を確立し、外交スキルを高めて乗り切るしかありません。

資源ナショナリズムへの対抗策は、論理的に考えれば人材育成が鍵となります。

対抗策の第1は資源とのバーター材料を保持すること。典型例は技術。つまり、実用化や応用技術を提供することです。

もっとも、中国をはじめ諸外国の技術力は急速に高度化しており、それを上回るスピードとレベルでの技術力蓄積が日本の国家戦略に不可欠の要素です。

第2はWinWin(ウィンウィン)の関係を築くこと。例えば、レアアース、レアメタルを使用する企業や工場を中国国内に立地させることです。

もっとも、その際に技術流出抑止の観点から、中核部品や中核技術をブラックボックス化する必要があり、第1点と密接に関係しています。

第3は、代替資源、代替技術の開発。技術流出を完全に抑止することは不可能であるほか、外交的に資源利用を遮断されるリスクが常にあるからです。

以上の3点を実現するために必要なのは、要するに高度人材。

ところが、先週7日、OECD(経済協力開発機構)が発表したGDP(国内総生産)に占める公的教育支出比率は加盟国中最低。

科学技術開発や人材育成を優先すべきは自明の理であり、論理的な国家戦略の構築と実践が求められます。

(了)


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