党の成長戦略PTの下に、総合特区、環境未来都市、都市再生、規制・制度改革等に関する小委員会が設置され、委員長を務めることになりました。副大臣として担当していた分野ですが、今後は党サイドから政府の対応をアシストしていくことになります。
韓国慶州で行われていたG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)が閉幕。通貨安競争を回避することを一応合意。しかし、「とりあえず」という感じであり、今後の動向は依然として目が離せません。
通商、為替、外交などの国家間交渉は、ゲームのような側面があります。だからこそ、政治学や経済学の分野で「ゲーム理論」が誕生しました。
ゲームですから「勝ち」と「負け」があります。「引き分け」もあります。国家間交渉で「勝ち」「負け」があまり明確になることは好ましくありません。その後の外交関係、国民感情を悪化させ、紛争や戦争に発展しかねません。
そこで、紛争や戦争を回避するという大前提の下では、表面的に望ましい結果は「痛み分け」。しかし、当事者がそれぞれ「まあ、仕方ない」「痛み分けだが、実利を得た」と思える内容が、国家間交渉の決着としては合理的です。
ゲーム理論の常道のひとつに「最大(マックス)の損失を最小(ミニ)にする」という「ミニ・マックス戦略」があります。簡単に言えば、「ボロ負け」だけは回避する戦略です。
合理的、論理的に物事を考えれば、古今東西を問わず、同じ真理に到達します。吉田兼好の徒然草にも「ミニ・マックス戦略」が登場。曰く、「勝たんと打つべからず、負けじと打つべきなり」。双六(すごろく)の名人の言葉として記されていますが、まさしく「ミニ・マックス戦略」です。
今回のG20。日本にとって最大の損失、つまり「ボロ負け」状態は、何も合意できずに「日本円だけに皺寄せすればよい」「困っているのは日本だけだ」という包囲網を形成されることでした。
相手の立場になって考えることも勝負ごとの鉄則。中国にとっての「ボロ負け」状態は、中国元の切り上げを約束させられる「中国元版プラザ合意」。
しかし、中国元に対しては「市場で決定される通貨制度への移行」を抽象的に求めるにとどまり、中国も「ミニ・マックス戦略」に成功。
各国の為替介入については、「先進国は為替レートの過度な変動や無秩序な動きを監視」「協調的でない対応は全ての国に悪い結果をもたらす」と両論併記。これも「痛み分け」です。
何とも玉虫色の決着ですが、これが国家間交渉の現実。今回のG20ゲームは、日本にとってはドロー(引き分け)と言えます。
ゲーム理論と聞くと、投機家として有名なジョージ・ソロス氏の名前が浮かんできます。1930年ブダペスト生まれのハンガリー系米国人で、1960年代に投機ファンドを立ち上げました。
「ゲームのルールが変わる時が大儲けのチャンス」というのはソロス氏の名言のひとつ。1992年、英国がポンド切り下げを余儀なくされている局面(ゲームのルールが変わる局面)で、イングランド銀行(英国の中央銀行)にポンドを売り浴びせ、約2兆円の「史上最高の投機利益」を獲得。以来、伝説の投機家となりました。
ソロス氏は単なる投機家ではなく、思想家、篤志家としても知られています。思想家としてのソロス氏が提唱しているのが「再帰性(refexibity)理論」。
少々難解ですが、ゲーム理論にひきつけて表現すると、「こうしたい」「こうなるべきだ」と考える人間の戦略と現実の出来事の不確定性、双方向の影響を指摘した概念です。
つまり、「現実の世界は戦略によって変えられる」という面、「現実の世界の変化に合わせて行動する」という面、その両面を意識することの重要性を説くのが「再帰性理論」。あくまで、僕の理解に基づく解説です。
また、ソロス氏は篤志家として多くの社会活動を行っていますので、投機利益を個人的に使うことには興味がないとも言われています。
FRB(連邦準備制度理事会、米国の中央銀行)のボルカー前議長は、ソロス氏の著書「ソロスの錬金術」(The Alchemy of Finance)の序文に寄稿。「ソロス氏は獲得した資金の大半を、途上国と新興国を開かれた社会にするために使っている。開かれた社会とは、人々が自分とは異なる考え方や行動に対して寛容の心を持つことを意味している」と述べています。
また、ボルカー前議長は、「ソロス氏はゲームが有利なうちに手を引く賢明さを具えている」とも述べています。そのソロス氏、過去に米国外交問題評議会のメンバーにも名を連ねていました。つまり、米国外交戦略の知恵袋です。
今や中国も外交戦略を立案する際に、科学者やコンピューターを駆使して、相手国やステークホルダー(利害関係者)の思考や行動をゲーム理論的に分析していると言われています。
日本は通商交渉や外交交渉に臨むに当たり、徹底した情報収集と論理的分析を行わない限り、諸外国と対等な国家戦略を確立することはできません。
ソロス氏の「再帰性理論」に照らして言えば、「相手国の戦略と現実の世界の変化に翻弄される国」とならないように、日本外交は相当の努力が必要です。
G20後の記者会見で、ガイトナー財務長官が「米国の政策は強いドルを支えるものだ」と発言。米ドル安、輸出増加による景気回復を掲げたオバマ大統領の「ニューミックス」政策と照らしてみると、何とも首をひねりたくなります。
しかし、外交とはそういうものです。国家間交渉や国家戦略とは、かくも不合理、変幻自在、融通無碍であることを、日本は強く認識するべきでしょう。
ガイトナー長官は「米国は基軸通貨国として世界の金融安定化に向けて特別の責任がある」とも発言。その後、中国の王岐山副首相との会談に臨み、「重要な経済問題について議論する」と述べたそうです。中国元切り上げ問題について協議が行われていることが予想されます。
しかし、二国間協議の内容は闇の中。真相は当事者しかわかりません。今や世界の二大覇権国家の米中両国には、共通の利益もあることでしょう。日本の知り得ない、日本にとって不利益なコミットメントが行われる可能性もあります。日本としては、そういう緊張感を持つことが必要です。
ゲーム理論を外交戦略に活用する米中両国。しかし、元祖ゲーム理論は中国にあります。すなわち、孫子の兵法。
孫子の兵法が教える外交戦略の常道は「近攻遠交」。対立する隣国に対して優位に立つためには、隣国の背後にある遠くの国との外交関係を確立するということです。早い話が「挟み撃ち」。
21世紀の国際社会を中国春秋時代と同様に考えることはできませんが、基本的な発想は参考になります。
中国の対日戦略を「近攻遠交」に当てはめれば、米国と有効な外交関係を確立することは当然です。
同様に日本の対中戦略を考える場合、中国の背後の大国、インドの重要性を十分認識しなければなりません。
インドは、尖閣諸島や南シナ海で権益拡大を企図している中国の行動を批判し続けています。また、インドと対立関係にあるパキスタンに対して、中国が核技術協力を行っていることにも懸念を示しています。しかも、インドと中国は新興輸出大国としてライバル関係。
「近攻遠交」から言えば、日本は当然インドとの良好かつ戦略的な外交関係を確立する必要があります。
もちろん、日本は中国とも友好関係、戦略的互恵関係を目指すべきです。しかし、外交とは、各国が最大限の努力と知略を駆使する結果として形成されるものです。努力や知略に差がありすぎては、良いゲーム(外交)はできません。
ゲーム理論では、プレーヤーが互いに最高の努力をして形成される状態のことを「ナッシュ均衡」と言います。ナッシュはノーベル賞を受賞した経済学者です。
しかも、プレーヤー同士が協力し合わない「非協力的ゲーム」の場合、少なくともひとつの「ナッシュ均衡」が存在するというのがゲーム理論の基本です。
外交は表向きは「協力的ゲーム」ですが、本質は「非協力的ゲーム」。自国の利益を犠牲にして、他国の利益を優先する国はありません。
日本外交は、はたして「ナッシュ均衡」を達成しているでしょうか。自問自答が必要です。
(了)