1月18日付で厚生労働副大臣を拝命しました。医療、介護、年金、雇用の諸課題に取り組むとともに、「社会保障と税の一体改革」に向けて職責を果たします。党の広報委員長は馬淵前国交大臣に、総合特区・規制改革小委員会委員長は三谷副委員長に引き継ぎました。それぞれ重要な課題を抱えていますが、馬淵さん、三谷さんに後を託します。
通常国会がスタートしました。予算及び関連法案、税と社会保障の一体改革、TPP(環太平洋経済連携協定)など、多くの争点の帰趨が注目されます。
そのうちのひとつ、社会保障と税の一体改革については菅直人首相が検討手順を関係大臣に指示しました。
第1に、厚生労働大臣が社会保障の「具体的制度改革案」を検討し、「あるべき姿・方向性」を作成すること。
第2に、それを受けて社会保障・税一体改革担当大臣が、社会保障と財政健全化を両立させるための「税制改正案」を検討すること。
第3に、第2の動きと歩調を合わせ、財務大臣が政府税調での検討を開始すること。
第4に、民主党幹事長、政調会長(国家戦略担当大臣)、社会保障の税の抜本改革調査会長は、上記の動きと連動して党内での検討と超党派協議を進めること。
「あるべき姿・方向性」の作成を優先するアプローチは合理的と言えます。筆者も、日本の社会保障論議は政策論と財政論が主客転倒、順番が逆転しているというのが従前からの持論。
財政論の制約を前提に政策論を詰めてきた従来のアプローチは、社会保障制度の姿や方向性を歪めてきました。始めに政策論ありき、然るべき後に財政論の観点から調整。このアプローチが本筋です。
社会保障給付費は平成22年度(予算ベース)で105.5兆円。内訳は年金53.2兆円(全体の50.4%)、医療32.1%(30.4%)、介護7.5兆円(7.1%)、その他福祉12.7兆円(12.0%)。
その給付費を賄っているのが、保険料58.7兆円(55.6%)、税金37.3兆円(35.4%)、その他(積立金運用収入等)9.5兆円(9.0%)。
膨大な規模ですが、対GDP(国内総生産)の国際比較でみると突出しているわけではありません。
日本の19.3%は米国(16.5%)よりは高いものの、欧州諸国(英国21.3%、ドイツ26.2%、スウェーデン27.7%、フランス28.8%)よりは低水準。
もっとも、予算(一般歳出)に占める割合が51%と過大であることに加え、今後の少子高齢化の進展が社会保障改革を促す要因となっています。
そうした点の改革、改善も進めなければ、結果的に社会保障制度の充実もできません。社会保障改革を行うことと、その他の問題を改革することは表裏一体。トートロジーのようですが、それが現実です。
社会保障と税の一体改革を目指す菅内閣。社会保障給付費が一般歳出の51%を占めることから、換言すれば、歳出と歳入の一体改革です。
社会保障給付費の中で最大の割合を占めるのは年金。2009年度末の年金受給者数は5988万人となり、過去最高を記録。
一方、年金制度を支える加入者数は6874万人。4年連続の減少となり、現役世代1.8人で年金世代1人を支える厳しい状況となっています。
政権交代前の麻生政権が直面していた状況も同じであったことから、平成21年通常国会で成立した所得税法等改正法附則第104条1項で次のように規定されました。ちょっと長いですが、全文引用します。
曰く「政府は、基礎年金の国庫負担割合の二分の一への引上げのための財源措置並びに年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する費用の見通しを踏まえつつ、平成二十年度を含む三年以内の景気回復に向けた集中的な取組により経済状況を好転させることを前提として、遅滞なく、かつ、段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成二十三年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする。この場合において、当該改革は、二千十年代(平成二十二年から平成三十一年までの期間をいう。)の半ばまでに持続可能な財政構造を確立することを旨とするものとする。」
この条文を根拠とした「消費税を含む税制の抜本的な改革」の内容と時期が、今国会の重要な論点のひとつです。
平成22年度予算における消費税収は12.1兆円。うち1%分(2.5兆円)は地方消費税。残る9.6兆円のうち、2.8兆円は地方交付税に充当。その結果、国の歳入となるのは差し引き6.8兆円。
一方、予算総則によって、消費税は基礎年金、老人医療、介護の国庫負担分(平成22年度で16.6兆円)に充てることが決まっています。したがって、結果的に9.8兆円の財源不足となっています。
この点が、最近の消費税増税論議の背景ですが、仮にこうした枠組みの維持が困難という判断に至れば、予算総則や所得税法等改正法の附則第104条の見直しが必要となります。
今国会は、附則第104条の解釈と扱いを巡る論戦となります。
予算編成や財政健全化を巡る論争でよく引用されるのが「入るを量(はか)りて、出(い)ずるを為す」という中国の古典の一節。
「四書五経」の中の「礼記王制篇」に登場する言葉ですが、日本では「為す」を「制す」と変えて「量入制出」と表現するのが一般的です。
原文は「以三十年之通制國用、量入以為出」。その含意は「三十年の実績を通算し、その平均値で収入を量って予算を立てる」。賢明な教えです。
しかし、日本の現実は、その教えの逆、「量出制入」となっています。増加し続ける歳出を賄うために、国債や増(歳入)によって増収を図るという構図です。
歳出の中には社会保障給付費も入っていますが、その他の一般歳出もあります。社会保障給付費の削減は容易ではありませんが、その他の一般歳出の削減も同じです。
そこで登場したのが埋蔵金論争。たしかに、特別会計や独立行政法人、公益法人等に蓄積されている剰余金や内部留保はあります。
しかし、それを活用するためには剰余金や内部留保を使って、先々実行する計画になっている業務や公共事業を止めなくてはならないということです。
「埋蔵金を活用して、これからの時代に必要な政策を行う」という大方針は変わっていません。しかし、「そのためには、止めなくてはならないものがある」。ここがポイントです。
その決断の障害となっているのが「ニムビィシンドローム」。「Not In My Back Yard」の頭文字をとって「NIMBYシンドローム」です。
つまり、「自分の庭では余計なことはするな」「自分に不利益なことには抵抗する」症候群です。誰もが持っている当然の深層心理です。
「ニムビィシンドローム」についてはメルマガVol.215(2010.5.11号)でも取り上げています。ご興味があれば、ホームページのバックナンバーをご覧ください。
この「ニムビィシンドローム」を乗り越えないと「止めるべきものは止めて、埋蔵金を使って新しい政策に取り組む」ことは困難です。
「量入制出」と「ニムビィシンドローム」。今の日本は、この関係を深く考え、議論することが求められています。
(了)