3月11日の大地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げますとともに、お亡くなりになった皆様のご冥福をお祈り申し上げます。また、救援活動に尽力して頂いている全ての関係者の皆様に心から感謝申し上げます。観測史上最大の地震の威力、自然の猛威に改めて驚愕し、地震国日本の現実に背筋が寒くなる思いです。地震発生以来、対策に専心していますが、今後も救助・救済・復興に全力を尽くします。
このメルマガは3月11日夜に送信するつもりで作成していました。この事態を受けた来週のマーケット動向も気になりますので、とりあえず送信させて頂きます。以下の認識に加え、今回の地震の影響が重要な考慮要因として加わりました。
世界経済の安定、不均衡是正に向けて、先月パリで開かれたG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)。先進国と新興国の利害が対立し、相互評価・監視体制に関する合意は次回以降の会議に持ち越されました。
そもそもG20は2008年のリーマンショックに端を発してスタート。世界恐慌への懸念に対して、経済政策の協調を模索しました。
新興国を代表するBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の急回復、急成長もあって、2010年から世界経済の協議の舞台はG7からG20に移行。1970年代から続いたG7時代は終焉を迎えました。
そして2011年入り後の今回のG20。米国の量的緩和政策に対する批判が先鋭化した昨年より対立が弱まったとの見方がある一方、恐慌懸念が遠のき、不均衡是正が主要テーマになったこともあって、新興国と先進国の利害対立は根深くなっているようです。
先進国は、かつて日本との不均衡是正を目指してG7内で導入した枠組みと同様のスキームの実現を標榜。一方、新興国は自国に不利なスキームが導入されないように抵抗。
ポイントはどのような指標で不均衡を評価するかという点です。先進国は外貨準備や実質実効為替レートの採用を目指しましたが、中国を筆頭にした新興国の反対によって頓挫。
また、経常収支と貿易収支のどちらを選択するかも焦点としてクローズアップされました。中国にとって輸出入が相殺される貿易収支よりも、金融収支が加算される経常収支の方が黒字が拡大。こうした中、ブラジルが貿易収支の採用を主張して決着。中国、ブラジルの新興国連合の連携プレーです。
中国元の切り上げを主張した先進国に対して、中国人民銀行の周小川総裁が「外国からの圧力には屈しない」と発言。1980年代に日本が円切り上げを余儀なくされ、1985年のプラザ合意に至った展開とは様相を異にします。
中国は、BRICsに南アフリカを加えたBRICS(小文字sが大文字Sに変更)の会合を4月に北京で開催することを決定。G20での合意実現は予断を許しません。
G20ではなく、協調不在のG0(ゼロ)体制との指摘も聞かれる状況下、今年の世界経済は波乱含みです。
上述のとおり、パリで開かれたG20では、先進国と新興国の利害対立から政策協調合意は秋に持ち越し。原油価格高騰など景気の先行き懸念材料も台頭しており、今後の展開は予断を許しません。
ニューヨーク原油市場では国際指標WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)が1バーレル100ドル台乗せ。2年半振りの高値です。
高騰の原因はふたつ。第1は中東・北アフリカの政情不安。原油埋蔵量世界8位のリビア(生産能力日量約160万バーレル)の生産は半分以下に激減。他の産油国の政情不安も高まっています。
サウジアラビア(同400万バーレル)が増産を検討するなど、OPEC(石油輸出国機構)が対策を講じる動きを示しているものの、そうした国にも政情不安が波及するリスクがあります。
第2は投機マネー流入。リーマンショックの主因である世界的金融緩和に伴う過剰流動性は解消されていません。
投機筋が運用対象を虎視眈々と物色していたところに今回の中東・北アフリカの政情不安。需給タイト化に伴う価格高騰を睨んで、投機マネーが原油市場に流入しました。
そもそも、リーマンショックの余韻が薄れつつあった昨年、世界の商品先物市場に流入した投機マネーは約700億ドル(約5兆8千億円)。国際商品市況が既に上昇基調となっていた中、中東・北アフリカの政情不安は投機筋にとって格好の買い材料でした。
既にリーマンショック直前(2008年7月)のWTI高値である147ドルが視界に入り、政情不安が長期化する場合は湾岸戦争当時の220ドルまで上昇する可能性が指摘されています。もちろん、背景には投機筋のポジショントークがあります。
また、投機筋は日本もターゲットにしつつあります。比較的安全な通貨・資産として円と日本国債に投機マネーが流入。東京市場では、為替は円高、長期金利(新発10年物国債流通利回り)は低下傾向がジワリと続いています。
日本の景気や財政の先行き懸念を囃(はや)し、格付機関が日本国債を格下げした矢先のこの展開。
「無理筋の理屈」であることは明白ですが、市場は投機筋の動きに反応しています。蠢く投機マネーの動きに要注意です。
昨年末のメルマガで「今年の中国は利上げを余儀なくされる」とお伝えしましたが、いよいよその傾向が顕著になってきました。
既に2月8日に昨秋来3回目の利上げを行った中国。先週来開催されている全国人民代表大会(全人大、国会に相当)では物価抑制が政策課題としてクローズアップされ、利上げ圧力が一段と高まりました。
こうした動きは中東・北アフリカ情勢とも関係しています。中国政府は、物価上昇、格差拡大で国内に鬱積する不満が中東・北アフリカの反政府運動と呼応することを懸念。つまり、物価抑制は喫緊の政治課題です。
また、為替政策にも波及しています。中国人民銀行(中央銀行)は、米国を中心とした国際的圧力を受けて昨年6月に為替政策を弾力化。要するに元高を容認しました。
その後も元はジリ高を続け、先月発表の基準レートは1ドル6.5695元。2005年7月の現行制度移行後の最高値です。
従来の中国であれば、これ以上の国際的な元高圧力には屈しないという姿勢を示すところですが、今回は少し様子が異なります。
中国人民銀行はこれまで、貿易黒字や投資目的で中国国内に流入してくる外貨を買い上げる市場介入を行い、対価である元を放置する非不胎化政策を採用してきました。為替的には元安政策、金融的には緩和政策です。
しかし、今後はこの介入を減らして、元高傾向を容認する方向に軌道修正。その狙いは「一石四鳥」にあります。
物価抑制が政治課題となる中、第1に元高は輸入物価を低下させてインフレ圧力を緩和。第2に、今や資源や食料の輸入大国となった中国にとって、元高は購買力向上に寄与。第3に、物価抑制、購買力向上は国内の不満対策として政治的にも有効。第4に、国際的な元高要求にも対応できます。
資源・食料高、物価上昇の影響は欧米諸国にも及んでいます。先週、欧州中央銀行(ECB)トリシェ総裁が4月の利上げに言及したほか、米連邦準備理事会(FRB)バーナンキ議長も「デフレ懸念は無視できるほど小さくなった」と発言しました。
一方、日本はデフレ傾向が続いているものの、物価に斑模様の動きが出始めています。物価動向、金融政策の今後の動向は要注目です。
(追伸)冒頭に記したとおり、以上の認識に加え、今回の地震の影響が重要な考慮要因として加わりました。
(了)