2次補正予算が成立しました。まもなく、東日本大震災の復興基本方針も決定します。被災地復興に向けて、次は本格的な3次補正予算を編成することになります。避難所と仮設住宅の生活支援、被災地の医療・介護インフラの復旧など、課題は山積です。引き続き、粛々と職務に精励します。
日本学術会議は、福島第一原子力発電所の事故を受けて、今後の原子力政策について以下の4つの選択肢を提示しました。
第1は、原発を即時全面停止して火力などで代替する。第2は、5年程度で原発分の電力を自然エネルギーと省エネで代替する。第3は、20年程度で原発分の電力を自然エネルギーで代替する。第4は、安全な原子炉をつくり、将来も原子力を重要なエネルギーとして位置付ける。
今後の原子力政策に対する世論は百家争鳴ですが、自然エネルギー、再生可能エネルギーの技術や実用性、利用率を高めていくこと自体の有意性は、誰も否定できないでしょう。
再生可能エネルギーには2種類あります。ひとつは、水力、風力、太陽光、太陽熱、地熱、潮力、波力などの自然エネルギー。石油や石炭などの化石燃料は、燃やしてしまったら再生はできません。
もうひとつは、生ゴミや廃熱、植物から作ったバイオ燃料(バイオマス)などを利用するリサイクルエネルギー。両者を総称して再生可能エネルギーと言います。
日本の発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、水力を除くと僅か1%。脱原発を決めたドイツは、自然エネルギーが17%を占めています。
風力の発電量に占める割合は、日本では0.3%。風車と言えばデンマーク。そのデンマークでは風力が24.9%を占めており、さすがという感じです。因みに、欧州は全体に風力に熱心に取り組んでおり、欧州連合(EU)の平均は5.3%。
再生可能エネルギーへの取り組みが欧州に比べると遅れていた米国も、偶然ですが、福島第一原子力発電所事故の直前に方針転換。
今年1月の一般教書演説で、オバマ大統領は2035年までに電力の80%をクリーンエネルギーにすると表明しました。米国は実現力、実行力の高い国ですから、きっと達成することでしょう。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が5月に公表したレポートによると、2008年の世界全体のエネルギーの約13%(水力を含む)が自然エネルギー。今後、各国が政策的に自然エネルギーを推進することによって、2050年には77%まで高めることが可能としています。
日本としても、世界の平均並みの水準は最低限実現しなくてはなりません。というよりも、地震国であり、唯一の被爆国であり、今回の事故を経験した国としては、世界の平均以上の努力をするのは当然と言えるでしょう。
かつて日本の発電の中心であった水力は、自然エネルギーの代表です。しかし、2009年度の水力発電(大・中規模分)は769億kWh。全発電量が9551kWhなので、全体の約8%にすぎません。
もっとダムを造って水力の割合を高めたらどうかという意見もありますが、大規模ダムの好適地は少なく、建設コストを考えた財政負担、ダム建設による自然破壊等を考えると、なかなか難しいようです。
しかし、水は川だけではありません。海もあります。そこで注目されるのが潮流を活用した潮力発電。
潮流はまさしく潮(しお)の流れ。「海の中を流れる川」というイメージです。潮流よりも、さらに安定的で強い流れが得られるのが海流。年間を通して同じ方向に数ノットから10ノット近くの早さで流れます。
スクーバダイビングの指導員をしていた立場から経験的に言えば、海の中の潮流・海流はまさしく「川」です。流れに逆らって泳ぐことは困難であり、時に「激流」と言えるほどの流れもあります。だからこそ、時々事故も起きます。
潮力発電は、潮流・海流のある海域に発電設備を内蔵した支柱を投入。その支柱にプロペラ型タービンを敷設し、潮流・海流によってプロペラが回るという仕組みです。1本の支柱にタービンを複数つけることも可能です。
風と違って潮流・海流は安定的で絶えることがありません。風車のように止まることはなく、プロペラは回り続けます。
日本は四方を海に囲まれており、南からは黒潮と対馬海流、北からは親潮とリマン海流。360度、どこの海に投入しても潮力発電が可能です。
エネルギーを電力に変える転換効率で比較すると、風力は12%、太陽光は18%、水力(河川、潮流)は75%であるのに対し、海流はほぼ100%と言われています。
四方を海に囲まれた日本にとって、潮力発電の潜在的可能性は極めて高いと思います。潮力発電に関して日本企業が保有している技術を、既に欧米諸国が獲得に動いています。やがては中国も動くでしょう。将来有望な日本の技術の海外流出を防がなくてはなりません。
素人的な思いつきですが、潮力発電用の海中投入支柱の上に洋上風力発電の風車を併設すれば、風力発電と潮力発電を同時に行うことも可能です。
技術的に困難な点は多々あると思います。困難な点を挙げて諦めるのではなく、困難な点を乗り越える努力が日本に求められています。
再生可能エネルギー、自然エネルギーの割合を高めていくことを、誰が担うかということも問題です。つまり、電力会社が行うのか、電力会社以外が行うのか、あるいは両者が共同して行うのか。
電力会社に再生可能エネルギーによる発電を義務づけるのはRPS(Renewables Portfolio Standard)制度。「再生可能エネルギーの利用割合の基準」を設けるという意味です。
1970年代のオイルショックを契機とした火力発電(石油)依存への危機感、原子力発電所の建設困難化、国際的な地球温暖化対策のための温室効果ガス(二酸化炭素など)排出規制強化が進む中、2002年に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」が成立し、2003年から施行されました。
一方、電力会社以外が発電した電力を、電力会社が普通の電気料金より高い価格で買い取るのがFIT (Feed In Tariff)またはFIL(Feed In Law)制度。
エネルギーの買い取り価格(タリフ)を法律で定める制度であり、固定価格買取制度、MPS(Minimum Price Standard)制度、電力買取補償制度とも呼ばれます。
米国では多くの州でRPS制度が導入されている一方、再生可能エネルギーの利用が進んでいる欧州ではFIT制度を採用しています。
日本ではRPS制度が2003年から導入されましたが、義務量が少なく、再生可能エネルギーの利用は伸び悩み気味。そこで、2009年からは住宅太陽光発電の余剰分についてはFIT制度に変更されました。
現在国会で審議されている再生エネルギー特措法は、2012年から電力会社に対して、現在の住宅太陽光に加え、企業による太陽光、風力、地熱、バイオマスなどによる発電電力の全量買い取りを義務づけます。
電力会社が固定価格で買い取った電力のコストは、電力会社の電気料金に上乗せされるため、再生可能エネルギーのコストは全国民で負担することになります。
自宅で太陽光発電に取り組んでいる人は、電気料金が値上がりしても、余剰分の買い取り対価で相殺できますので、家庭での再生エネルギーの取り組みにインセンティブが湧きます。企業も同じです。そういう意味では合理的な政策と言えるでしょう。
自然エネルギー、再生可能エネルギーによる発電は、電気、動力エンジン(鉄道、自動車)、ITに次ぐ「第4の革命」と呼ばれています。
日本は「第2の革命」である動力エンジンの分野では世界を席巻しました。日本経済の再生と復活のためには、「第4の革命」でも世界をリードすることが必要です。
現状では先頭グループに引き離されています。先頭グループをキャッチアップし、新興国に追い抜かれないように、政官財学の各界が一致結束して取り組まなくてはなりません。今なら間に合います。
(了)