明けましておめでとうございます。今年もOKマガジンをどうぞよろしくお願い致します。野田改造内閣がスタートしました。国内も難問山積ですが、国際社会も主要国首脳が揃って選挙や交代時期を迎える節目の年。内外の諸情勢を十分に分析し、的確に対処していかなければなりません。
毎年、年始のメルマガでは干支(えと)の話をお伝えしています。干支は十干十二支(じっかんじゅうにし)で構成されますので、「十」と「十二」の最小公倍数の「六十」でひと回り。六十歳になると自分が生まれた年の干支に戻るので「還暦」と言います。
ちなみに、十干は「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」、十二支は「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」です。 最初の組合せは「甲」と「子」の「甲子」。その年に作られた野球場が甲子園です。
政権交代が起きた2009年の干支は「己丑(つちのとうし)」。暦によれば、「新しい秩序が生まれる」という含意があります。
たしかに、前回の「己丑」は1949年。東西ドイツ、中国が建国され、北大西洋条約機構(NATO)が誕生。東西対立という第2次大戦後の世界の枠組みが決まりました。
前々回の「己丑」は1889年。憲法が公布され、近代日本の建国が本格的に始まった年です。その後、日清戦争、日露戦争、第1次世界大戦の戦勝国となり、日本は「坂の上の雲」を目指しました。
翌2010年の干支は「庚寅(かのえとら)」。「庚」は「更(あらた)まる」という意味で、草木の生長が行き詰まり、新たなかたちに変化する状態を示します。「それまでのやり方が限界を迎える」と表現する暦もありました。
さらに翌2011年。干支は「辛卯(かのとう)」。「新しい芽が出ようとする」というのが暦の示す干支の含意。その年に、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故が起きたのは、何とも因果なことです。
そして2012年。今年の干支は「壬辰(みずのえたつ)」。辰は竜(龍)とも書き、「昇る」「上昇する」「発展する」という含意があります。一方、壬は「宿る」「成長する」という含意。そういえば、両方の字に「女(おんなへん)」をつけると「妊娠」となります。壬辰は「新しく宿ったものが伸びる」というような解釈ができるそうです。
「新しい秩序が生まれる」「これまでのやり方が限界を迎える」「新しい芽が出ようとする」「新しく宿ったものが伸びる」という含意のこの4年間。政治経済の実感と異なるという感想の方が多いかもしれませんが、水面下で起きていることは、少し後になってからでなければわからないものだと思います。
今年のメルマガも、日本や世界の水面下で起きている変化を分析し、自らの仕事上の道標とするとともに、少しでも読者の皆さんの参考になるような内容にしていきたいと思います。
昨年11月にOECD(経済協力開発機構)が発表した世界経済見通し。EU(欧州連合)の実質成長率はわずかプラス0.2%。一方、米国と日本はともにプラス2.0%。日本はEUに比べると堅調です。
もっとも、欧州財政危機が深刻化し、その影響で米国景気が失速する悲観シナリオのケースでは、EU、米国とも実質成長率はマイナス2.0%。一方、その場合でも日本はマイナス0.2%。何とかゼロ成長近傍に踏みとどまるという見通しです。
日本経済が相対的に底堅く見られている原因は、東日本大震災からの復興需要の存在。OECDの景気先行指数では、好不況の分岐点である100を大きく上回っているのは日本だけです。
街が流され、生産設備も破壊されたことから、ストックベースの国富を20兆円近く失った日本。復興需要があると言っても、失われた国富を回復するという意味ですから手放しでは喜べません。
それでも、景気の伸び率としてはたしかに堅調。つまり、「瞬間風速」としては欧米に比べると心地よい風が吹くという状況です。この心地よさが、株価に反映されればさらに暖かさが増します。
もっとも、株価が上がると日本経済に対する期待が高まり、ユーロやドルに対して円が買われてまた円高が進みます。円高は心地よい風を肌寒くし、雨も降らせます。なかなか複雑な天気模様であるというのが、今年の日本経済の実情でしょう。
市場関係者が注目するミザリーインデックス(悲惨指数)。失業率と物価上昇率を加算した指数ですが、これが高いほど厳しい経済環境であることを示します。
ミザリーインデックスでも、日本は欧米に比べてデータ上は堅調。それは、物価上昇率が低いため。というよりも、デフレだからです。
欧米諸国はインフレ、日本はデフレという構図は、実質成長率で優位な日本を、名目成長率では劣位な立場に変えてしまいます。
やはりデフレ解消が重要なポイントとなりますが、復興需要は国内の建設資材価格やその他の物価を上昇させる可能性もあります。結局、グルッと回って話が復興需要に帰ってきました。
ということは、要するに復興需要が日本経済のカンフル。復興を本格的に進展させることが非常に重要ということです。この際、被災地復興、原発事故対策のために、しっかりと財源を投入していくことがトリガーとなりそうです。
そういう観点からも、今年度第4次補正予算案も早く成立させなくてはなりません。
国内の経済構造だけでなく、国際社会の構造や力学も激変しています。このメルマガでも断続的にお伝えしてきています。
2010年に中国のGDP(国内総生産)は日本を上回り、米中日3国は経済規模で世界1位、2位、3位を占めることとなりました。
米日においてはTPPの交渉が始まる一方、日中ではASEANプラス3の枠組みの中で主導権争いが続いています。その背景では、「プラス3(日中韓)」が伸長著しいASEANへの影響力を競い合っていると言えます。
この間、EU(ユーロ圏)は財政危機に直面し、米中日の太平洋経済圏、アジア経済圏に関与を強める余裕がありません。
こうした中、今年は米国、欧州、アジアの主要国首脳の選挙の年に当たり、その結果は国際社会の構造や力学に確実に影響を与えます。
その皮切りに、本日(1月14日)、台湾総統選挙で国民党の馬英九氏が辛勝。対中国融和路線の継承となりました。
3月4日にはロシアの大統領選挙。フランス大統領選挙は4月22日の第1回投票を経て、勝ち残った2人で5月6日に決戦投票。プーチン大統領とサルコジ大統領が審判を受けます。
9月には中国共産党大会で胡錦濤主席から習近平主席に交代する予定です。そして11月6日は米国大統領選挙。民主党オバマ大統領と共和党ロムニー氏の選挙になるでしょう。12月には韓国の大統領選挙もあります。
翻って日本。総選挙があるかもしれません。ない場合でも、9月の民主党代表選挙は必ずやってきます。
国際社会の構造や力学が激変する状況下、日本は国内で「コップの中の争い」をしている場合ではないでしょう。21世紀前半の国際社会の動向を見据え、国家としてどのように対応していくかが問われる局面です。
干支で言えば「己丑」「庚寅」「辛卯」「壬辰」が続くこの局面。60年前の同様の局面では、国際社会では東西対立が始まり、日本は西側の一員として敗戦から再スタートを切りました。
もうひと回り前の120年前の局面。欧米列強諸国が覇権争いを激化させる中、日本はアジアで唯一の近代国家として体裁を整え、殖産興業、富国強兵の道を歩み始めました。
さて、今回の局面。新しい秩序とは何か。限界を迎えるものは何か。新しい芽とは何か。新しく宿るものとは何か。その答えを模索し、具体的に行動していかなければなりません。
国際社会の経済や政治の状況を踏まえ、素直に考えれば「太平洋経済圏の時代」が始まりつつあると言えます。日本は「太平洋経済圏の時代」にどのような戦略で臨むのか。それが問われていると思います。
総選挙であっても、民主党代表選挙であっても、消費税や社会保障制度の論点もさることながら、国際社会の中の日本の立ち位置についても議論することが必要です。今年は、外交・通商・防衛問題について、今まで以上に関心を高めていかなければなりません。
(了)