2月もあとわずか。北日本や日本海側などで大雪が続いていますが、何とか冬の電力供給不足を乗り切りましょう。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」傾向のある日本社会。福島第一原発事故の収束作業はまだ続いています。電力供給不足解決の目処が立ったわけでもありません。需要サイド、供給サイド、双方で工夫と努力を続けていかなくてはなりません。
2011年の日本は31年振りの貿易赤字。赤字規模は約2兆5千億円。東日本大震災、タイ洪水に伴うサプライチェーンショック、世界経済低迷などが輸出不振につながったほか、原発事故、原油高に伴う輸入金額増加も影響しています。
原発停止に伴って代替燃料の輸入量も金額も増加。原油輸入金額は前年比2兆円増加したほか、LNG(液化天然ガス)は同1兆3千億円増加。両方で3兆3千億円。これがなければ貿易赤字ではなかった計算になります。
昨日(24日)のニューヨーク原油先物価格は、1バレル110ドルに迫り、約10か月振りの高値圏。ホルムズ海峡危機も影響していますが、主要国が世界同時金融緩和を続ける中、投機マネーが原油に向かっていることも影響しています。
市場筋は1バレル150ドルになることも予想。その場合、2012年の米国GDP(国内総生産)は前年比マイナス5%、日本の企業業績も同マイナス10%近い減益が見込まれます。「第3次オイルショック」という表現も聞かれるようになっています。
1973年の第1次オイルショックの契機は同年10月に勃発した第4次中東戦争。イスラエルの攻勢に喘いだサウジアラビアなどの中東産油国が親イスラエル西側諸国に対してとった原油禁輸措置。原油価格は1バレル3ドルから12ドルと4倍に引き上げられました。
1979年の第2次オイルショックの契機はイラン革命。イランからの原油輸出途絶に伴う需給逼迫を材料に、産油国は1バレル36ドルに引き上げ。原油価格は6年間で12倍になりました。
こうした状況を受け、日本を含む原油輸入国(先進国)は脱原油にシフトし、省エネ政策や原子力発電を推進。先進国の脱原油・省エネは原油需要の減少につながり、外貨獲得を企図したOPEC(石油輸出国機構)の原油増産を誘発。
需給緩和で増産すれば、価格低下は必定。1986年から88年には、1バレル10ドル以下という「逆オイルショック」をもたらしました。以後、原油供給量に対する懸念が薄らぐ中で21世紀を迎えたものの、2003年のイラク戦争勃発を契機に再び原油価格は上昇トレンド入り。
以後、「第3次オイルショック」のリスクが何度も指摘されつつ今日に至っていますが、今回は現実化する懸念が高まっています。
ここに来ての「第3次オイルショック」懸念の背景は、第1次、第2次とは全く異なります。第1次、第2次の構図は、基本的に産油国VS輸入国(先進国)の国際力学から生じた現象。一方、「第3次オイルショック」の背景には3つの要因が影響しています。
第1は、中国などの新興国の原油需要急増。第2は、世界同時金融緩和。そして、第3はホルムズ海峡危機に象徴される地政学リスク。トリプル要因と言えます。
ホルムズ海峡危機が現実のものとなれば、輸入原油の8割がホルムズ海峡を通過する日本にとってはまさしく「第3次オイルショック」。新興国や金融緩和の動きと相俟って、原油価格は1バレル150ドルに向かって急騰するでしょう。
しかし、量の確保という面では、原油よりもLNGの方が懸念されます。第1次、第2次オイルショックを契機に、日本は原油備蓄を充実。約200日分を確保しています。一方、LNGの備蓄は約10日分。
LNGの1次燃料としてのシェアは19%ですが、発電量に占めるシェアは29%にもなります。一方、石油等は1次燃料としては42%ですが、発電量としてはわずか7%(いずれも2009年度実績)。
日本が輸入するLNGの約3割はホルムズ海峡の向こう側、つまりペルシャ湾に面したカタールとアラブ首長国連邦(UAE)産。ホルムズ海峡危機が現実になると、10日後にはLNG不足に直面することになります。
この間、隣国韓国は、米国のシェールガス由来のLNG輸入量を増加させています。日本と同じようにエネルギー燃料を海外に頼る韓国。日本の一歩先を行っています。
そもそも米国は、2003年以降の「第3次オイルショック」の潜在的リスクに対応し、自国内で軽質タイトオイル(シェールオイル)を増産。つれて、シェールガス由来のLNG生産も伸びています。
米国も韓国もこうした動きを進めている中、日本も戦略的にエネルギー政策を転換し、1次燃料の調達ルート多様化にも取り組むことが急務です。
因みに、米国のLNG価格は単位(100万BTU)当たり約3ドル。日本がカタールやUAEから輸入しているLNGは約16ドル。地政学的リスクのあるLNGを米国産の5倍以上の価格で購入し続けることの合理性はありません。
原発事故、ホルムズ海峡危機を契機に、政府も事業者も、本気になってエネルギー政策の転換と1次燃料調達ルート多様化に取り組まなくてはなりません。
ずいぶん前から講演のオチで使っている「GーT=C(GからTを引くとC)」。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、「G」は「C」と「T」を組み合わせたような構造になっていますので、その「T」を引くと「C」。
ジャイアンツ(G)からタイガース(T)を引くとカープ(C)になると表現して笑いをとっていますが、「CHANGE」の「G」から「T」を引くと「CHANCE」。「変化」を求められる時に、「T」を除くと「G」が「C」になり、「好機」に変わるという文脈です。
では除くべき「T」は何か。それは「T=TABOO(タブー)」です。辞書によれば、「禁制」「禁句」「触れることや話すことが許されないもの」となっています。
1000年に1度の未曾有の大災害に遭遇し、原発事故が発生。エネルギー危機に端を発して企業も経済も社会も大転換が求められています。こういう時に、それ以前の「タブー」にこだわっていては活路を見いだせません。
「それはタブーだ」「そんなことはできっこない」という姿勢で臨めば、「できること」もできなくなります。日本社会の悪しき体質です。
1次燃料の調達ルート多様化は、何も米国からの調達に限ったことではありません。もっと近いロシアは資源大国。サハリン経由の原油パイプライン・ガスパイプライン構想を具体化することも一案です。
1次燃料だけでなく、電力そのものを融通し合うことも一考の余地あり。欧州は全域に系統線網(送電線網)を張り巡らし、各国間で電力融通を行っています。
ロシアや韓国と系統線網を結び、相互に電力融通し合うことを考えてみてはどうでしょうか。ここまで読んで「それは無理だろう」と思った人は「CHANGE」の局面を「CHANCE」に変えられません。
周波数問題もあります。東日本(50Hz)と西日本(60Hz)の電力周波数が異なる日本。この際、世界で稀に見るこの「特異な構造」是正に取り組まなければ、日本は周波数統一の機会を永遠に逸します。
これだけの事態に遭遇し、なおかつ「特異な構造」を温存するようでは、日本は「CHANGE」を「CHANCE」に転換する「運」から見放される気がします。
周波数変換所や変換器(FC)を計画的に展開していけば、やれないはずはありません。膨大な設備投資コストですが「特異な構造」を是正するための国民的コストと言えます。
しかし、コストであると同時に設備投資。投資効果は転換期間中ずっと継続します。電力政策、エネルギー政策大転換の一環、国策として展開すれば、コスト負担のあり方も工夫の余地があります。
日本と日本人のチャレンジ精神が試されています。「できない理由」を探して「タブー」にチャレンジしない社会に未来はありません。「どうやったらできるか」を考える。これが日本社会に求められる姿勢です。僕も頑張ります。
(了)