政治経済レポート:OKマガジン(Vol.262)2012.4.26


一昨日(24日)、AIJ事件に関する証人喚問が行われました。僕も浅川和彦証人に対して質問しました。AIJ事件は、年金制度のあり方、今後の類似事件への対応、日本社会の病根是正等の観点から、非常に重大な事件です。今回のメルマガは、いつもとは少し雰囲気が異なりますが、僕の質問及び浅川証人の証言のポイントを説明させて頂きます。


1.虚偽と水増し

読者の皆さんも報道を通じてご存じのことと思いますが、事件の概要を整理すると以下のとおりです。

浅川証人が代表取締役であるAIJ投資顧問(株)が、虚偽の「好調な運用成績」を示し、多くの顧客を集めていました。運用対象はAIMグローバルファンドというファンドです。

平成15年3月期から平成23年までの間でみると、多くの年金基金がAIMグローバルファンドへの運用を目的にAIJ投資顧問と契約。委託資金は合計1458億円にのぼります。

その結果、預かった年金基金の運用損が1092億円に及び、返済原資はなく、AIJ投資顧問と契約した年金基金の多くは解散の危機に直面しています。

年金基金の加入者も年金減額を余儀なくされます。さらに、年金基金を預けていた加入企業も倒産の危機にさらされています。

浅川証人が、顧客を「騙すつもり(意思)」があったかどうかが大きなポイントです。常識的に考えれば、当然「騙すつもり」があったと考えられますが、衆参両院の参考人質疑、衆議院の証人喚問では「騙すつもりはなかった」と述べています。

また、虚偽の運用成績を示した書類は、「虚偽ではなく、水増ししただけ」と強弁しています。「虚偽」と「水増し」は異なるという浅川証人の主張は、善良な国民には理解不能です。

ファンドの運用実務はAIJ投資顧問の実質的支配下にあったアイティーエム証券(西村秀昭代表取締役も証人喚問)が行っていました。西村証人がファンドの運用の実情を知っていたかどうかもポイントのひとつです。

西村証人はファンドの運用実績を報告する監査報告書を開封せずに浅川証人に渡していました。開封しないこと自体、善管注意義務に違反していたことになりますが、西村証人は「浅川証人から開封するなと言われていた」と述べています。

今回の事件の顛末は、今後、同様の詐欺を行う投資顧問会社等の事件が発覚した場合の対応に大きな影響を与えます。年金基金や多くの投資家にとって無関心ではいられません。

今回の参議院での証人喚問だけでなく、これまでの衆参における参考人質疑、衆議院証人喚問でも、浅川証人の発言は実に支離滅裂で論旨も論理も不明確です。

意図的にそうした話し方をしているとも思えますが、驚くべき話術です。国民と国会を冒涜していると言わざるを得ません。ご関心のある方は議事録をご覧ください。

以下、浅川証人が発言の中に意図的に挿入していると思われる支離滅裂の部分(ノイズ)を取り除いたかたちで、僕が担当した時間内での証言の要点を解説します。

2.騙すつもり

浅川証人自身が真摯に喚問に向き合い、協力する姿勢がなければ、20分という限られた時間で新たな事実を引き出すことは困難です。

浅川証人にそうした姿勢は全くみられませんでしたが、予想の範囲内。そこで、浅川証人の深層心理を明らかにすることに腐心しました。

まず、浅川証人に「運用成績の良い投資顧問会社と運用成績の悪い投資顧問会社の2社から運用先を選ぶ場合、浅川証人であればどちらを選択するか」と尋ねました。

(証言)「悪いより良い方がいいに決まっていますから、良い方を選ぶと思います」

続けて「虚偽の運用報告書によって、どのような現象が起きることを想定していたか。正確な運用報告書を提示していた場合に比べて、より多くの顧客が集まり、受託資金が獲得できると想定していたのではないか」と尋ねました。

これに対する証言は実に曖昧、とういうより巧妙。弁護士から指導を受けていたものと思われます。証言の核心を、原文を活かしてつなげると次のとおりです。

(証言)「虚偽ではなく水増しですけど、それを示すことよって集めたわけではなくて、基本的に集めたという認識はないんですよね。そこのところは私申し上げておきたいと思います。何とか運用を取り戻そうとしただけ」

刑法38条に定める「故意」の構成要件の解釈は、犯罪事実が実現しても「仕方ない」「やむを得ない」と認容をしていることで足りるとされています。その点を認めないように巧みに証言を回避していましたが、重ねての質問に次のように述べました。

(証言)「思ったよりスピードが速まって集まってしまった。自分は500億円くらいで良いと思っていた」

自分自身も「悪い運用先よりは、良い運用先に預ける」という一般的認識を述べ、予想より顧客がたくさん集まった事実を認めたという2点をつなげると、実際の運用実績(損失状態)を開示して営業していた場合よりも、より多くの顧客が集まる蓋然性を暗黙裏に認識していたということになります。

加えて「虚偽ではなく、水増し」と述べている点について、「浅川証人の定義に基づけば、虚偽と水増しはどう違うのか」と尋ねました。

(証言)「水増しと虚偽では、虚偽は悪意がありますけれど、水増しは私は悪意を持ってやっておりません。私の認識の虚偽と水増しは基本的には悪意があったかどうかで、私は悪意をもってやっておりませんのから、そのためにやったんじゃなくて、何とか戻そうと思ってやってきた」

「騙すつもりはなかった」「悪意はなかった」ことを徹頭徹尾主張することは弁護士と打ち合わせ済みのようです。

しかし、悪意をもって騙した場合と同様の現象が起きる蓋然性を認識していたことを認識していたことで、刑法38条の故意、刑法246条の詐欺の構成要件に該当します。

もちろん、僕の心象としては、浅川証人に「悪意」も「騙すつもり」もあったことは明らかだと思っています。

3.取り戻せる自信

さらに、損失を「取り戻せる自信があった」と繰り返し述べていますので、「その根拠は何か」と尋ねました。

(証言)「一時的に儲けが出ていた時期もあったので、取り戻せる自信はありました」

「取り戻せる自信」の根拠は「一時的に儲けが出ていた時期もあった」ということです。但し、決算ベースで「自信」を立証するような儲けが出ていた事実はありません。期中の一時的評価ベースの話を実に針小棒大かつ雄弁に主張しています。

また、虚偽の運用報告書をみせて新たな顧客を集め、受託資金を増やさなくては取り戻すことは不可能です。つまり、騙すことなしに取り戻すことは不可能だったということです。

一時的な現象を根拠に、膨大な損失を「取り戻す自信があった」と主張する論理の飛躍、そのための資金を集めるために虚偽の運用報告書を開示していたことを「騙すつもりはなかった」と強弁する姿勢には驚くばかりです。

ここでは、ごく一時的な現象を根拠にしていたことがポイントとなります。つまり、実現の確実性が相当低い、あるいは事実上実現が困難と言える状況を想定していたということです。これも、刑法246条の詐欺の構成要件に該当します。

「騙すつもり」はなかったという主張、「取り戻せる自信」があったという主張、この2点に関して、浅川証人には以下のように指摘しておきました。

「正確な運用報告書を提示していた場合と異なる顧客の行動を誘発することを潜在的に意識し、かつ根拠が薄く、実現が困難な状況を目指していたのという浅川証人の深層心理は、過去の判例や構成要件の解釈において、刑法246条の詐欺罪、刑法38条の故意に該当するほか、刑法233条の偽計業務妨害や金商法38条の禁止行為にも該当する」

質問の最後に、7980万円と証言した所得や新たに明らかになった4億円の配当収入などに比べ、証言した保有資産額にギャップがある(保有資産額が少なすぎる)矛盾を尋ねました。

(証言)「僕はもらったお金を貯めるタイプじゃない。使っちゃうタイプだから、本当に残念ながらないというのがホンネでございます、はい。隠すということは一切ない、意外にお金には無頓着である、ということだけ申し上げておきたいと思います」

何とも感想を述べにくい発言内容ですが、この証言に嘘がないかどうか、隠し資産がないかどうか、捜査当局や国税当局は腕の見せ所です。

こういう人物に投資顧問業の免許を交付する金融行政は見直さなくてはなりません。また、こういう人物が経営する投資顧問会社に大切な年金基金の運用を安易に委託することを認める年金行政も見直しが必要です。

浅川証人に対する各党代表者の質問の後、西村証人に対する証人喚問が行われました。西村証人が浅川証人と共犯であったかどうかがポイントです。西村証人には、刑法60条の共同正犯、刑法61条の教唆、刑法62条の幇助の適用も検討されなければなりません。

どんな時代、どんな社会にも、人を騙し、ルールを破る人間はいるものです。悲しいですが、それが人間社会の現実です。

そうと分かってはいるものの、「世の中にこんな人間がいるのか」と嘆息せざるを得ない人物に直面すると、暗澹たる気持ちになります。

証券取引等監視委員会、警察、検察等の関係当局が、迅速かつ厳正に対処することを期待します。また、金融行政、年金行政を担う金融庁、厚労省も、同様の事件の再発防止のために、万全を期さなければなりません。

(了)


戻る