早いもので今年も半分が過ぎました。東日本大震災からは1年4か月が経過。復旧・復興をさらに加速させなければなりません。昨日(6月30日)、所属学会から要請を受けて「震災復興と財政金融」というテーマで学術報告を行いました。関係資料をホームページにアップしますので、ご関心がある方はアクセスしてください。
本日(7月1日)付の毎日新聞の寄稿「時代の風」。久し振りに腹にストンと落ちる(腑に落ちる)読み応えのある寄稿に出会いました。普段から思っていたことを、実に見事に整理してくれています。
筆者はジャック・アタリ博士。フランスの経済学者、思想家であり、政府高官としても活躍しました。
1943年生まれの68歳。アルジェリア出身のユダヤ系フランス人。パリ政治学院を卒業し、1981年から91年までミッテラン大統領の補佐官を務め、91年から93年は初代欧州復興開発銀行総裁でした。
曰く「世界の国々の人口と国力の間には歴史上、直接的な関係は見いだせない」。人口の多い国でも国力が弱かったり、逆に小国でも世界的な影響力を保持した事例を示しています。
さらに、次のようにも指摘。曰く「だが、高齢化が進む国々は対策を取らなければ衰退する」。その対策として、5つの選択肢を列挙しています。
第1は出生率を増やす(フランス)。第2は少ない人口で安定化を目指す(今後の日本と示唆)。第3は移民受入れ(米国)。第4は女性の労働力を活用(ドイツ)。第5はロボットの活用(韓国)。
日本は150年間で4倍(3000万人から1億2000万人)になった人口が、今後100年間で5000万人前後に半減する見込みです。
しかし、「人口と国力は関係しない」のです。悲観することはありません。また、それ以外の選択肢にも取り組む総合的なチャレンジが始まったばかりです。
こどもを生み育てやすい環境づくりや政策の導入、外国人に開かれた社会、女性の社会進出支援、そして科学技術の振興。そういう視点で考えれば、日本は合理的な方向に進んでいます。問題は、そのスピードと腰の入り方です。
いずれの選択肢、対策も、それ相応の財源を投入する必要があります。もちろん、財源だけでなく、政策を実現するためのリソース(ヒト、モノ、カネ)を集中投下する必要があります。
しかし、相変わらず、それ以外の政策や事業に予算を投入することに様々なステークホルダー(利害関係者)が群がっていないでしょうか。政官財学、各界はよくよく自問自答しなければなりません。
もちろん、それ以外の政策や事業で必要なものもあります。しかしどう考えても、この局面(財政制約に直面した現在の日本)では自粛すべきもの、優先度が低いものまでも、「これも必要だ」と言い張って予算の「分捕り合戦」を行っていないでしょうか。
その点が改まらない限り、「人口と国力は関係しない」というアタリ博士の日本へのエールは、空しくハズれるかもしれません。
優先度と言えば、福島第1原発の事故処理対策は最優先。現在も約1万人が事故処理に当たってくれていることを忘れてはなりません。その中には、若者も女性も含まれています。
事故処理に当たってくれる関係者を国民全体、国全体、社会全体で全面的にバックアップすることなくして、廃炉は実現しません。数10年、おそらく半世紀がかりの大仕事です。
6月26日、1号機格納容器下の圧力抑制室付近にたまっている汚染水の直上(水面から約20センチ)で、毎時10.3シーベルト(1万300ミリシーベルト)という高線量が測定されました。
そういう場所に人が行くことはできません。原発労働者の年間被曝限度に20数秒で達する水準であり、その場所にいたと仮定すると50分で致死線量に至ります。
だからこそ、今後の事故処理にはロボット技術が不可欠。アタリ博士が高齢化対策の第5の選択肢として示すロボットの活用。韓国が急速に力を入れている分野です。
日本では、主に自動化やコスト削減の観点で早くから生産ロボットが活用されてきました。しかし、今度は労働力不足への対応です。
生産現場に加えて、高齢者に対する医療や介護の現場でもロボットまたはロボット的技術の導入が始まっています。
そして、他国にはない日本のニーズ。原発事故処理のためのロボットです。高度で最先端のロボットが必要なことは言うまでもありません。
そのロボット開発には、膨大な財源が必要になるでしょう。電子部品が放射線の影響を受けないようにするためには、放射線を遮断する金属等の外装が不可欠。現在の技術では、かなりの重量になることが想定されます。
しかも遠隔操作。あるいは人口知能(AI)をもった高度ロボット。まるでSFのようだと思うかもしれませんが、そのSFを実現しなければ事故処理はできないという認識を、国民全体、国全体、社会全体で共有することが必要です。
財源だけではありません。技術者(科学者)、資材を含むリソース(ヒト、モノ、カネ)全体をこのことに優先配分できるかどうか。その姿勢に日本の未来はかかっています。
喉元過ぎれば熱さ忘れる。良くも悪くも日本人、日本社会の特徴のような気がしますが、この問題に関してはそうであっては困ります。今も事故処理に当たってくれている関係者がいること、事故処理には半世紀かかることを忘れてはなりません。
既に忘れてしまい、不要不急の政策や事業にリソースを投入していないでしょうか。自問自答が必要です。
日本が目指すはロボット先進国。そのことが結果として、テクノロジーで世界をリードする新しい日本、「人口と国力は関係しない」というアタリ博士の指摘が当てはまる新しい日本を誕生させます。
アタリ博士の寄稿が掲載された今日(7月1日)、日本でも再生エネルギーの固定価格買い取り制度(Feed In Tariff)がスタート。再生エネルギー開発も、新しい日本にとって不可欠の取り組みです。
対象となる再生エネルギー施設の登録が6月18日から始まり、先週末までに太陽光43か所、風力1か所の、合計44施設、約4万キロワットの申し込みがありました。
現時点で完全に原発代替を目指すならば3000万キロワット分が必要ですが、今年度中の実現見通しは250万キロワット分。1割にも届きませんが、それでも原発2基か3基分。滑り出しとしてはまずまずです。
今回の制度は5つの再生エネルギー(太陽光、風力、地熱、中小水力、バイオマス)を対象としており、買い取り価格をエネルギー生産コストより高めに設定したことが奏効しています。
太陽光の場合、毎時1キロワット当たり42円。生産コストは30円程度ですから、供給者(太陽光パネル設置者)は十分に採算がとれます。
逆に言えば、その分は、需要者(消費者)の電気代に跳ね返ります。今年度は、消費者の電気代への上乗せ額は毎時1キロワット当たり0.22円。月7千円の電気代を支払う標準的家庭で約87円の負担増が想定されています。
これを高いとみるか、低いとみるか。意見はいろいろでしょうが、脱原発依存を目指す以上、やむを得ないコストです。再生エネルギーの生産量(買い取り量)が増えれば、将来的にはさらに高くなります。
国民全体、国全体、社会全体で、この点を納得すれば、再生エネルギーの供給量は将来的に十分に確保できます。
ところで、再生エネルギーの活用、供給量増加を図るためには、送電網の整備が不可欠。ロボットと同様、優先度の高い分野です。国民合意の下で、送電網整備にリソースを集中投下できるかどうか。国民全体、国全体、社会全体の決意が問われます。
再生エネルギー先進国のドイツでは、中国製の廉価な太陽光パネルが流入。価格競争に晒され、世界最大のメーカー「Qセルズ社」が倒産しました。
太陽光パネルにしろ、風車にしろ、再生エネルギー関係設備を内製化することが必要です。増え続ける再生エネルギー関係設備に対する内需を、外国製品にスピルオーバー(流出)させないことに腐心しなくてはなりません。
それができれば、再生エネルギーへの取り組み、そしてロボット開発は、「人口と国力は関係しない」というアタリ博士の指摘を日本で実現する切り札となります。
再生エネルギーは「日本を再生させるエネルギー」になりうるのです。但し、「なりうる」のであって、黙っていても「なる」のではありません。
かつてのように、不要不急の政策や事業にリソースを投入し、予算の「分捕り合戦」が続くようでは、アタリ博士の予言はアタリません。そうならないように、頑張ります。
(了)