総選挙が終わりました。民主党は惨敗。ご支援いただいた皆様に御礼とともにお詫びを申し上げます。しかし、自民党政権になっても日本の抱える課題は変わりません。引き続き、積年の課題に真摯に向き合い、政策実現を目指すとともに、新たな展開に向けて努力します。
政権は変わったものの、再生可能エネルギーの新技術開発、実用化の流れは変わらないでしょう。
そうした中、先行する欧米諸国で起きている事象にも目を向けて、日本国内の今後の動向を見通すことが必要です。
再生可能エネルギーの中でも風力と並んで早くから実用化されていた太陽光発電。米国でもオバマ大統領が「グリーン・ニューディール政策」を打ち出して以来、太陽光発電のシェアや関連設備の増設が続いています。
米太陽エネルギー産業協会の発表によれば、2012年の米国の太陽光発電設備新設容量は前年比70%増の320万キロワット。世界平均(14%増)を上回る設備投資の伸びです。
もっとも、明るい話ばかりでもありません。昨年9月には、「グリーン・ニューディール政策」の象徴とも言われた太陽電池メーカー、ソリンドラが経営破綻。その後も関係企業の破綻が続きました。
今年4月には太陽熱発電のブライトソース・エナジーが株式上場計画を撤回。市場環境の悪化を懸念しての動きです。
さらに、日本が総選挙の真っ只中の今月12日、太陽電池パネル設置大手のソーラーシティが株式公開(IPO)の公募価格を1株13~15ドルから8ドルに大幅に引き下げ。これも、市場環境の悪化、機関投資家の反応の鈍さに対応した動きです。
こうした動きの背景は太陽光関連設備の供給過剰や設置事業者の過当競争。日本でも同様の傾向が強まることが予想されます。
原発代替エネルギー技術の開発・実用化は日本の至上命題。しかも、日本の技術・インフラ・プラント輸出の「新機軸」として育てていく必要があります。
太陽光・風力に代表される再生可能エネルギー関連産業を計画的に成長させていくことこそ、新しいエネルギー戦略のポイントです。市場任せ、成行き任せという訳にはいきません。
「新機軸」と言えば、日本では夢のある話が進んでいます。民主党政権では次期「宇宙基本計画」(13~17年度)の素案に、宇宙空間に設置した太陽光パネルで電気を作り地上へ送る「宇宙太陽光発電」の推進を盛り込みました。電気をマイクロ波に変えて送信し、地上のアンテナで受信後に再び電気に変換して使う技術です。
これを受け、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2013年度から実証衛星の設計を始め、17年度に打ち上げる目標を設定。JAXAが開発中の新型固体燃料ロケット「イプシロン」で打ち上げます。
実証衛星の軌道は地上から約400キロメートルの高さの電離圏内。分子や原子が紫外線やエックス線の影響で電子が分離したプラズマ状態になっているため、マイクロ波がプラズマに反応せずに地上に届くか(つまり電力を送れるか)を実験します。
地上での太陽光発電は夜間や悪天候時には電気が作れません。「宇宙太陽光発電」が実現すると、天候に左右されず、電気を安定供給できます。発電量は地上の約10倍とも言われています。
こういう計画は、自民党政権でも是非継続してほしいものです。そういう方向となるように、国会でしっかりと議論していきます。
「新基軸」と言えば、日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が一段と拡大しています。2012年は1月から11月で467件。まだひと月を残し、既にバブル期の1990年(463件)を上回って22年ぶりに過去最高を更新。
金額ベースでは現時点で昨年比約1割増の6兆9千億円。円高のため、円換算の金額は過去3番目程度。仮に1990年当時の1ドル150円程度で換算すると、約13兆円。圧倒的な過去最高額です。
国籍別の「買い手」として日本企業は米国に次いで2位となる見通し。日本経済が海外からの所得増加を目指す「GNI(国民総所得)経済」の流れに入っていることを示す証左と言えるでしょう(メルマガVol.275<2012年11月25日号>参照)。
大型案件(ソフトバンクが米国進出戦略の一環として米携帯電話大手スプリント・ネクステル買収<買収額約1兆5000億円>)があったことに加え、外需獲得を目指した案件が続いています。
また、地域的には中国リスクに対応した動きも見受けられます。中国案件は尖閣諸島問題が表面化した秋以降に急減。中国案件が通年では昨年並みの件数にとどまる一方、中国に代わる先として、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム等、東南アジア案件が倍増の勢いです。
こうした動きの背景には、上場企業で約60兆円という豊富な手元資金(内部留保)があることも影響しています。バブル期に思わぬ「泡銭(あぶくぜに)」を手にしてM&Aや海外資産購入に奔走したのと比べると、戦略的に内部留保を投資している傾向が伺われます。
一方、内部留保の活用だけでなく、日本企業によるドル建て債券の発行も急増。年初から11月半ばまでで629億ドルに達しており、2011年の発行額よりも6割増。M&A件数と同様に、2012年は既に年末を待たずに過去最高を更新しています。
M&A資金の調達という側面に加え、日本企業の海外進出の加速に伴い、現地通貨建ての資金ニーズが増えているほか、為替リスク回避に資することや、円ベースよりも安く資金調達できることなどが背景です。
過去のM&Aのための円建て債務(借入や起債資金)を借り換えるため、ドル建て債で資金調達し、円転して過去の債務コストを軽減する動きも散見されます。
海外投資家の間で日本銘柄に対する買い意欲が引き続き旺盛なこともドル建て債の発行を後押し。日米欧の3極構造の中では、ユーロ圏(欧州)の債務問題が日本企業のドル建て債を相対的に優良案件にしている幸運もあるようです。
「新機軸」は金融政策の分野でも進んでいます。このメルマガでも何度も取り上げていますが、米国での動きがさらに活発化しています。
やはり日本が総選挙の最中の先週12日、米連邦公開市場委員会(FOMC)は失業率が6.5%程度(11月は7.7%)に落ち着くまで事実上のゼロ金利政策を続けることを決めました。米連邦準備制度理事会(FRB)が失業率を政策の目安にするのは初めてのことです。
従来、FOMCはゼロ金利を続ける時期を「少なくとも2015年半ばまで」としてきました。いわゆる「時間軸」政策です。
今後は、「時間軸」ではなく、具体的な失業率の基準に達するまでゼロ金利を続けるという「新基軸」。6.5%の失業率はリーマン・ショックの影響が本格化する前の08年秋ごろの水準です。
但し、向こう1年から2年の物価上昇見通しが2.5%よりも低くとどまっていることを条件としています。FRBは根拠法で雇用の最大化と物価の安定を義務づけられており、この2つを共に目配りしたと言えます。
バーナンキFRB議長は「その水準に到達したら緩和的な政策を縮小し始めるという目安のようなもの」と発言。6.5%に近づいたらすぐにゼロ金利を解除するのではなく、景気や物価を総合的に判断して決める姿勢を示しました。
日米欧が「QEレース」をしていることは過去のメルマガ(Vol.272<2012年9月25日号>)で説明したとおりです。そういう中で、民主党政権では夏の日銀審議委員人事における緩和派の委員(2人)選任、9月と10月の2か月連続での緩和、さらには、担当大臣の政策決定会合への3回連続出席。そして、政府・日銀の合意文書作というプロセスを経てきました。
そこに、さらに総選挙における自民党・安倍総裁の金融緩和に関する超積極発言。こうした一連の日本の動きが、米国FRBの対応を促した面があるでしょう。米国の「新基軸」には、日本も何らかのカウンターを出すことが必要です。
米国FRBが根拠法で「雇用の最大化」を明示していること、日本でも同様の対応を志向すべきであることを、過去の国会で早くから指摘していた筆者としては、日銀も何らかの工夫をすべきと考えます。
既に20年近く続く過度の円高・デフレ、継続する雇用環境や所得水準の不安定化。日銀も何らかの指標を「中間目標」として採用するような「新基軸」にチャレンジすることは当然の職責と言えます。
なお、FOMCは、今月末のツイスト(ねじれ)オペ終了に伴い、毎月450億ドル(約3兆7000億円)の長期国債を買い入れる量的緩和の強化策も表明。
ツイストオペは長期債を購入する一方で、短期債を売却。したがって、FRBのバランスシートは変化なし。しかし、新たな措置の下では短期債の売却がなくなるため、FRBのバランスシートは膨らみます。
FOMCは9月にも住宅ローン担保証券(MBS)を毎月400億ドル(約3兆3000億円)ずつ購入する量的緩和の第3弾(QE3)を打ち出しました。今回の決定と合わせると、毎月850億ドル規模の資産購入を続けることになります。
さて、日銀の「新機軸」。いかなる内容になるかが試されます。
(了)