特別国会が終了し、役所も御用納め。曜日構成の関係で、民間企業も今日が最後の先が多いことと思います。厳しい年の瀬となりましたが、新年から気持ちも新たに頑張ります。今年もメルマガをご愛読いただきましたことに感謝しつつ、今年最後のメルマガを送信させていただきます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
安倍政権がスタートしました。安倍首相の就任前からの発言を受けて、円安が進み、株も1万円台を回復。それ自体は結構なことだと思います。
足元の円安、株高を一過性の現象に終わらせることなく、合理的で根拠のある政策運営によって、1990年代から続く円高・デフレの原因が根治されることを期待します。
安倍首相の経済政策をマスコミは「アベノミクス」と称しているようですので、「アベノミクス」について考えてみたいと思います。
概して言えば、金融緩和と財政拡大。加えて、規制緩和を目指しているようです。過去の政策と比較して、「アベノミクス」の特徴を確認してみます。
かつての自民党全盛時代は教科書的なケインズ政策を実践。つまり、不況期には財政拡大と金融緩和。したがって、ケインズ政策の弊害も典型的に顕現化。好況期になっても財政縮小ができず、金融のみ引締め。
予算は既得権益化し、国債発行が累増。今日の財政赤字の本質的原因となりました。規制も既得権益化。主に強化、複雑化が進みました。
「アベノミクス」は金融緩和と財政拡大。かつてと比べると、「金融緩和」と「財政拡大」の順番が逆。また、小泉政権や民主党政権が留意していた財政規律(国債発行枠的なアプローチ)には相対的に関心が薄いと言えます。
加えて規制緩和を標榜。この点は、小泉政権を彷彿とさせます。結果的に小泉政権は既得権益化した規制を温存しつつ、それ以外を中心に緩和。そのことが、格差拡大や特定分野の過当競争につながりました。
民主党政権では、規制緩和と言わず、「規制改革」と呼称。不合理に既得権益化した規制は緩和等の見直しを行う一方、時代や社会の変化に合わせて新たに強化するものもあるという立場でした。
財政、金融、規制の3点セットという意味では、「アベノミクス」も真新しいものではありません。どの政権でも基本的な手段は同じです。
そうした中、「アベノミクス」の特徴は、金融緩和への依存度が強いこと、財政規律への関心が薄いこと、規制緩和の方向性が現時点では明確でないこと、の3点と言えます。
また、外需獲得を目指す諸外国との経済連携(TPP等)に対するスタンスが明確でないことも4点目の特徴です。
民主党政権は、「アベノミクス」に比べると、相対的に金融緩和に過度な依存はしなかったこと、財政規律への関心は高かったこと、経済連携には前向きであったこと、と整理できます。
マスコミに「アベノミクス」と称される安倍政権の政策体系はまだよく分かりません。分析と評価はこれからですが、期待が先行していることは事実です。
先行する期待に基づく円安、株高。それ自体は良いことですので、期待が期待のみに終わらないことを期待します。単語が「期待」ばかりで恐縮ですが、「アベノミクス」の検証はこれからです。
上述のように、現時点で得られる情報をもとに整理すると、「アベノミクス」に何か新しい概念や手段が具体化しているわけではありません。
金融緩和と財政拡大と規制緩和。国を良くしたい、経済を立て直したいという気持ちは共有していますので、成功を期待しつつも、政策の詳細がよくわからない中では、「いつか来た道」というか「既視感」という印象もあります。
「既視感」の語源はフランス語の「デジャヴュ」。それを英語的に発音したのが「デジャブ(ヴ)」であり、「already seen」つまり「既に見た」という意味です。心理学用語であり、「実際は一度も体験したことがないのに、既にどこかで体験したように感じる現象」のことを指します。
超能力研究をしていたフランスの精神心理学者エミール・ブワラックの1917年の著書「超心理学の将来」の中で指摘されました。
「デジャブ」には「体験した(見た)覚えがあるが、いつ、どこのことか思い出せない」という違和感を伴うのが一般的。
「アベノミクス」のメニューそのものは「かつてと同じ」であり、真新しいものではありません。厳密な意味での「デジャブ」とは違います。つまり、「いつ、どこで見たかは覚えている」わけです。
しかし、「何となくデジャブ」というのが現時点での率直な「アベノミクス」の印象です。
「かつてと同じ」という意味では「体験した(見た)覚えがあるが、いつ、どこのことか思い出せない」ということではありません。「デジャブとは違うなぁ」と思っていたら、「未視感」という言葉に遭遇しました。
「未視感」は「既視感」とは逆に「見慣れたはずのものが未知のものに感じられること」を指すそうです。
フランス語の「ジャメヴュ(ヴ)」を英語的に発音して「ジャメブ(ヴ)」と言うそうです。
まさしくそれです。「アベノミクス」に抱いている感覚は「ジャメブ」。期待が期待のみに終わらないことを期待する「今の円安、株高の背景にある期待」は「ジャメブ」です。
興味が高じて心理学用語を調べていたら「プライミング効果」という言葉にも遭遇。「先行する現象が後続する現象に影響を与える状況」を指すそうです。「先行する事柄」を「プライム」と称します。
就任前の安倍首相の発言(先行する事柄)の「プライミング効果」によって、必ずしも新しくない政策手段に「ジャメブ」を感じている。これが現時点での「アベノミクス」の実態と言えます。
繰り返しになりますが、国を良くしたい、経済を立て直したいという気持ちは共有していますので、成功を期待しつつも、「未視感」「ジャメブ」に終わらないことを期待します。そのためにも、「アベノミクス」に感じている「ジャメブ」の実態を分析、検証していきたいと思います。
「アベノミクス」が「ジャメブ」に終始してしまえば、やがて「プライミング効果」も剥落。過度な金融緩和への依存、財政規律への関心の薄さは、弊害を顕現化させるリスクがあります。
経済現象には、何事にもメリットもデメリットもあります。過度な金融緩和への依存、強引なインフレの実現には、名目所得の上昇よりも物価上昇のスピードの方が早まったり、金利上昇による住宅ローン借入者や中小企業の借入金への負担感を増すというデメリットもあります。
デメリットよりもメリットの方が大きくなるようにしなくてはなりません。もちろん、日銀もデメリットばかり強調しないで、金融緩和の成果を出す努力を続けなくてはなりません。
財政規律への関心の薄さも、国債金利の上昇(国債価格の下落)というデメリットにつながらないように留意が必要です。
金利上昇は為替には円安要因。「ジェメブ」の「プライミング効果」による円安にとどまっているうちはメリットの方が大きいですが、財政規律低下に伴う「日本売り」による円安になっては困ります。
財政規律には米国も苦労しています。クリスマス明けの今週も「財政の崖」回避に向けた大統領と議会の協議が続いていました。
「財政の崖」とは年明けに大型減税(ブッシュ減税)失効や歳出強制削減が重なり、「崖から転落するように」財政が急激に引き締められる問題のこと。2013会計年度(12年10月から13年9月)だけで最大6000億ドル(約50兆円)の緊縮財政となります。
大統領と議会は年内の決着を目指しているようですが、今後の展開は予断を許しません。ポイントは富裕層増税の取り扱いです。
共和党強硬派は富裕層減税の打ち切りに反対。大統領は「年収40万ドル(約3300万円)超」の減税打ち止めを求め、共和党強硬派は「年収100万ドル(約8400万円)超」に絞るように主張。
年内に合意に達しなければ、1月2日から歳出強制削減が始まり、米経済は「財政の崖」から転落します。
その場合は米経済ひいては世界経済に影響が出ます。米議会予算局は「財政の崖」を転落した場合、2013年の米実質成長率をマイナス0.5%に押し下げ、失業率(11月7.7%)を9.1%に悪化させると推計しています。
「財政の崖」から転落する事態となれば、米国財政は信認を失い、米国債の格下げリスク、金利上昇リスクが顕現化し、市場は「警鐘」を鳴らします。
財政に「打ち出の小槌」はありません。鎌倉初期の「宝物集(ほうぶつしゅう)」は「打ち出の小槌」はお金だけではなく、人や物まで出現させ、幸福を生み出す不思議な力を宿していると記しています。しかし、お金も人も物も「鐘の声」を聞くと雲散霧消するとも伝えています。市場の「警鐘」は「打ち出の小槌」の「鐘の声」です。
金融緩和に依存する「アベノミクス」。金融政策も中央銀行も「打ち出の小槌」ではありません。「ジェメブ」の「プライミング効果」が続いているうちに、お金だけではなく、人や物まで出現させること、つまり実体経済を活発化させることが不可欠です。
為替も物価も「金融要因」「需給要因」「心理要因」の3つで動きます。「アベノミクス」は現状「心理要因」が効き、「金融要因」に依存しようとしています。課題は「需給要因」。
来年も国会論戦や政策活動を通して「アベノミクス」を検証していきます。
(了)