国会が閉会しました。2期目の任期もほぼ満了。2期目の活動記録であるダイジェスト・ムービー「Advance Flag(アドバンス・フラッグ)」をホームページとYouTubeにアップしました。URLは http://youtu.be/xCCFd-slqHk です。予告編(45秒)に続いて本編(約8分)をストリーム。ご覧いただければ幸いです。
日銀出身の国会議員として、経済政策に関して常に「2つの鉄則」を意識して仕事をしてきました。ひとつは「経済政策は結果が全て」ということ。
この鉄則に照らせば、昨年秋頃に比べて株価が上昇したことは、「結果」として評価するのが正当であると考えます。
一方、もうひとつの鉄則は「経済は中長期的には『理に適った』ことしか起きない」ということ。
足元の「結果」が何かに無理な力が働いたために生じた「現象」であれば、中長期的には「理に適った」方向で調整されることを意味します。
株価上昇という「結果」を評価しつつも、その要因を冷静に分析、認識することは、先々の経済政策運営を考えるうえで重要なことだと考えます。
株価上昇の背景についての僕の認識は、メルマガ285号(2013年4月12日)、同287号(2013年5月20日)で述べていますが、ポイントは次の3点。
第1に、日本の金融政策はもともと先進国の中で最も緩和を行っていた状態。つまり、マネタリーベースの対GDP(国内総生産)比で最も高い状態にありました。
第2に、その日本が、今までの2倍のマネタリーベースの拡大を行うと宣言。円の供給増加は、市場関係者に円の価値下落を連想させ、円安が進行。
第3に、円安進行は、輸出増加、輸出企業の業績好転を連想させ、輸出関連株が株価上昇を先導。
ということですから、この「結果」が、過去20年余に及ぶ株価の一貫した下落傾向に本格的な転換をもたらす論理的必然性はありません。
もっとも、政府首脳が「景気は気から」という認識を再三主張。否定するつもりはありませんが、過去20年余の株価低迷の原因を解決することとの因果関係はありません。
過去の株価推移とそれに関連した僕の認識は、ホームページの「株価と経済の考え方」のコーナーをご覧ください(http://www.oh-kouhei.org/wayofthinking)。
1990年代から2000年代に株価を低迷させた原因(経済効果の薄い公共投資の拡大、深刻な財政赤字、不十分な社会保障制度改革や研究開発・人材育成支援策、後手に回った産業政策・通商政策等)を本気で解決することなくして、株価の傾向を本格的に転換させることはできません。
そういう趣旨を年初から講演等で述べつつ、バブル崩壊後の株価の「山(ピーク)」が一貫して低下傾向にあることから、今回の「山」が前回の「山」を越えるか否かが重要と指摘してきました。
バブル崩壊直前の日経平均(終値)の最高値は1989年12月29日の38,916円。その後の1回目の「山」は1991年3月18日の27,146円。
まだバブル崩壊の深刻さが浸透しておらず、景気循環的にはバブル景気のピークの時期。つまり、景気循環の「山」が1991年2月であったことから、その直後ということです。
2回目の「山」は1996年6月26日の22,666円。日銀の低金利政策を背景とした景気回復局面の「山」です。
3回目の「山」は2000年4月12日の20,833円。いわゆるITバブルの頃で、IT関連株を中心にした株価上昇局面でした。
4回目の「山」は2007年7月9日の18,261円。金融緩和、円安を背景とした「いざなぎ景気」を超える戦後最長の景気回復局面のピークです。
5回目の「山」が今回。デフレ脱却期待、異次元緩和を受けた株価上昇局面ですが、今のところ、2013年5月22日の15,627円をピークに、現在は13,000円近辺で推移。
こうした一連の動きについては、やはり上記の僕のホームページの「株価と経済の考え方」のコーナーをご覧ください(http://www.oh-kouhei.org/wayofthinking)。
このままの展開が続くと、現象的には、株価の長期低迷傾向はまだ続いているように見えます。
そうした状況を脱するためには、繰り返しになりますが、1990年代から2000年代に株価を低迷させた原因を本気で解決することが必要。だからこそ、産業政策が重要です。
経済政策が、金融政策、財政政策(2つ合わせて「マクロ経済政策」)、産業政策の「3本柱」で構成されることは自明の理。「3本の矢」は別に新しいことではありません。
したがって、民主党政権では、2010年の「新成長戦略」、東日本大震災後の2012年には「日本再生戦略」、自民党政権でも今回「成長戦略」を策定。これらの中身が本当に実現するかどうかがポイントです。
民主党政権では、金融政策については従来比一段の緩和を推進。その姿勢は、2012年10月30日の「デフレ脱却宣言(デフレ脱却に向けた取組について)」に象徴されています。
しかし、マクロ経済政策全体としては「理に適った」と考える選択をしました。つまり、先進国中最大の金融緩和、最悪の財政赤字という実情を踏まえ、金融緩和も財政拡大も自民党のような「超」拡大は選択しなかったということです。
ここが民主党政権と自民党政権の違いのポイント。どちらが「理に適った」対応であったかは、後世の経済状況の「結果」次第。評価する時点によっても異なり、誰にもわかりません。
前号のメルマガ289号(2013年6月24日)で「仮想現実」と「拡張現実」、「空想」と「実相」という内容をお伝えしました。
いわゆるアベノミクスの「仮想現実」「空想」は、異次元緩和、財政超拡大、成長戦略によって、デフレ脱却と経済再生が実現すること。
しかし、問題はその「拡張現実」「実相」。2年後の物価上昇率2%を目指しながら、長期金利は低く抑えるという「手品」の成功が前提となっています。
経済は中長期的には「理に適った」ことしか起きません。物価上昇率が2%になれば、長期金利は3%程度になるのが「理に適った」姿。
仮に「手品」に成功し、物価上昇率2%、長期金利0.5%という姿が実現する場合、働かずにお金を借りて、何かの資産(株や不動産)に投資すれば、黙っていても儲かるという経済状況。果たして、そんな「旨い話」があるのでしょうか。
昨日(26日)、安倍首相は記者会見で「今後3年間は脱デフレに集中」と発言。しかし、そもそも異次元緩和で2年後にはデフレから脱却しているシナリオだったはずです。
こういう些細な矛盾から、「理に適わない」取り組みは綻びを見せます。成長戦略の中に潜む矛盾については前回のメルマガ289号(2013年6月24日)をご覧ください。
「理に適った」異次元緩和の政策手段は日銀による外債購入。しかし、3月29日の参議院財政金融委員会において、僕のこの提案を黒田総裁は否定。この姿勢も矛盾と思えて仕方ありません。
質疑の模様は冒頭に記したダイジェスト・ムービー「Advance Flag(アドバンス・フラッグ)」の予告編(45秒)に続く本編(約8分)の最後の方に出てきます。
URLは http://youtu.be/xCCFd-slqHk。ご覧いただければ幸いです。
矛盾とは、中国の古典「韓非子」の一篇「難」の挿話に基づく故事成語。「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を売っていた男が、客から「その矛でその盾を突いたらどうなるのか」と問われて返答できなかったというお話です。
「どんな盾も突き通す矛」、「どんな矛も防ぐ盾」などという「旨い話」はない、というのが「矛盾」の教える示唆とも言えます。
(了)