7月21日投開票の第23回参議院議員選挙で3期目の議席をお預かりすることができました。ご支援いただきました皆様に心から御礼を申し上げます。今後とも、ご指導、ご鞭撻、ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます(インターネット、メール等での当選御礼は解禁されました)。選挙後も挨拶回りや事後処理で忙殺されていますが、メルマガ月後半号、滑り込みで間に合いました。
選挙期間中の7月18日、米国ミシガン州デトロイト市が連邦破産法第9条(チャプター・ナイン)の適用を申請。財政破綻しました。過去半世紀で人口が6割減少。税収が激減したことが財政破綻の外形的な原因です(詳細は項番3で述べます)。
負債総額は180億ドル(約1兆8千億円)以上。自治体の破綻としては過去最大。これまでの最大はアラバマ州ジェファーソン郡の42億ドル。その4倍以上です。
今年3月、スナイダー州知事はデトロイト市の「財政非常事態」を宣言。ケビン・オール氏を同市の「緊急財政管理官」に任命しました。
民間企業が倒産する場合には同法第11条の適用を申請。「チャプター・イレブン」の適用申請と言えば、日本の会社更生法や民事再生法の申請と同じようなイメージです。
民間企業の倒産も自治体の破綻も同じ法律で扱う米国。民間企業も自治体も「経営」という意味では同じであるという米国の哲学が垣間見える法制度です。
一方、日本には自治体の破綻法制はありません。数年前に北海道夕張市の破綻がニュースになりましたが、これは厳密に言えば「財政再建団体」になったということ。
日本では、自治体が一定割合以上の赤字財政になると、翌年度から総務大臣(国)の同意を得た「財政再建計画」に従わない限り、地方債を発行できなくなります。
地方債を発行できなければ予算編成も不可能。公共工事等の行政遂行も不可能。したがって、「財政再建計画」を策定して国の同意を得ることになります。これが「財政再建団体」です。
「財政再建団体」は民事再生法や会社更生法の適用企業と異なり、債務カットがありません。債権者の債権放棄(破綻側からみれば債務カット)の有無が米国の「チャプター・ナイン」とは大きく異なる点です。
都道府県では標準財政規模の「5%以上」、市町村で「20%以上」の赤字財政になると「財政再建団体」となります。
但し、対象は一般会計(普通会計)のみ。自治体が出資・運営する病院、鉄道、住宅・道路・土地関連公社等の特別会計(企業会計や第3セクター会計)の赤字は対象ではありません。
そのため、「財政再建団体」入り回避のために一般会計の赤字を特別会計に計上するという操作が一時横行。今もまだあります。日本の自治体の公会計制度や破綻法制を整備することが急務です。
夕張市の歴史は明治時代に近郊で石炭が発見されたことからスタート。多くの炭鉱が開かれ、1960年には人口12万人の国内最大の炭鉱都市に成長。
その夕張市が財政破綻に至った原因は主に4つ。第1は、エネルギー需要の構造変化。石炭から石油への需要転換に伴い、炭鉱閉山が相次いで人口も急減。
人口減少に伴う財政悪化を助長したのが1981年の炭鉱事故。93名の犠牲者を出して北炭夕張炭鉱が倒産。会社の保有していた病院、住宅、道路、水道等を市が買い取り、大きな財政負担となりました。
炭鉱の閉山処理には1979年から1994年の15年間で584億円が投入され、332億円の地方債が発行されました。
第2は観光バブル。観光事業への過大投資です。「炭鉱から観光へ」という謳い文句の下、「石炭歴史村」に代表される観光施設やリゾート施設の建設に注力。
時は折しもバブルに向かう日本経済。市の観光事業が「過剰な公共投資」と認識されるのはバブル崩壊後。民間資本が撤退し始めた後も、市はホテルやスキー場買収などの観光投資を続行。累積債務全体の5割超、186億円の債務を観光事業が抱えることとなりました。
第3は粉飾会計。1990年代半ば以降、一般会計と特別会計(観光事業会計)の間で年度を跨いだ不正操作により赤字隠し。問題の表面化を遅らせました。
第4は国の政策転換。具体的には、産炭地地域振興臨時措置法による臨時交付金廃止と三位一体改革による地方交付税削減。夕張市の財政悪化を加速させた一因です。
夕張市の2005年度赤字額は16.5億円、標準財政規模43.7億円に対する赤字比率は37.8%。「20%ライン」を超え、「財政再建団体」入り。累積債務額は353億円、標準財政規模の8.1倍でした。
エネルギー需要の構造変化という炭鉱都市の特殊要因はあったものの、「過剰な公共投資」「粉飾会計」という日本の行政(国及び自治体)の構造問題をクローズアップしました。
その後、国会でも地方議会でも議論と検討が続いていますが、改革は途半ば。まだまだ努力を続けなければなりません。
主たる産業の構造変化に伴う人口減少が財政破綻の主因という点では、デトロイト市も夕張市と同じです。
言うまでもなく、デトロイト市は自動車産業の拠点都市。今でもゼネラル・モーターズ(GM)が本社を構えています。
1950年代、デトロイト市は全米で最も賃金の高い街として注目を集めていました。しかし、70年代以降、日本車等との国際競争が激化。自動車メーカーは低賃金の労働者を求め、米南部、カナダ、メキシコ等へ工場を移転。産業の空洞化です。
産業の空洞化に伴って人口が減少。また、スプロール(外延化)現象によって、企業や住宅が郊外に流出。直近の人口は約70万人と全盛期の4割まで激減。空家となっているビルや住宅は約8万棟に及びます。
生産年齢人口も減り、失業率は約20%。廃墟が多く、治安が悪化して犯罪も多発。住民がさらに流出するという悪循環。不動産価格も下落。法人税、所得税、住民税、固定資産税等、全ての税収が減少し、財政は悪化の一途。これも悪循環です。
但し、今回のデトロイト市の破綻に関しては留意すべき点が3つあります。第1は、州政府や連邦政府が支援に乗り出さなかったこと。
3月に「財政非常事態」が宣言されて以降、投資家はデトロイト市の高利回り債券に投資。「緊急財政管理官」のケビン・オール氏が財政再建に着手し、市が行政改革を断行、世界に冠たるデトロイト市の破綻回避のために州政府や連邦政府も支援を行い、デフォルト(債務不履行)は回避されると予想(期待)していたからです。
しかし、現実は逆。州政府や連邦政府は静観の姿勢を崩さず、オール氏も過去債務を財政破綻によってカットすることを企図。それにより、崩壊した公共サービスに12.5億ドル(約1250億円)を再投資することを計画。つまり、米国内で囁かれているのは「意図された破綻」ということです。
第2は「デトロイト市」という単位で破綻申請したこと。つまり、「デトロイト市」と「デトロイト都市圏」の違いです。
「デトロイト市」の人口は上述のとおりピーク時対比6割減。一方、「デトロイト市」を含む「デトロイト都市圏」の人口は約450万人で1970年代から微増。
つまり「デトロイト都市圏」で起きていた現象は「デトロイト市」からの人口移動であり、人口減少ではありません。郊外へのスプロール現象が起きていたということであり、企業も住宅も、つまり仕事も中産階級も郊外に移転。この傾向は続いています。
「デトロイト市」は、人口減少、低所得者層中心、失業率上昇、治安悪化、不動産価格下落という悪循環に陥っている一方、「デトロイト都市圏」単位でみると経済、雇用情勢は安定。「デトロイト都市圏」単位で財政運営すれば、破綻は回避できたかもしれません。
第3に、デトロイト市の財政圧迫の最大の要因は公務員の年金及び医療保険等の負担ということ。
デトロイト市は現役公務員数に比べて過大な退職者数を抱えており、年金の支払い債務に対する準備率(積立率)は2割以下になっています。
また、デトロイト市は約180億ドル(約1.8兆円)の長期債務のうち、約100億ドル(約1兆円)を年金及び医療保険会計から借り入れています。
退職者の多くは「デトロイト市」ではなく「デトロイト都市圏」、つまり郊外に住んでいます。「デトロイト市」の破綻によって、郊外在住退職者の年金や医療保険に関する債務や将来支払いがカットされる可能性があります。
「デトロイト都市圏」で対応していたら、「まだ破綻しない、債務カットもない」ということになります。このあたりにも、「意図された破綻」と噂される原因がありそうです。
自治体の行政サービスを維持するための日本の地方交付税のような制度がない米国では、自治体の財政破綻は珍しくありません。今年になって「チャプター・ナイン」の適用申請はデトロイト市で4件目。一昨年は13件、昨年は12件でした。
米大手紙は、シカゴ、フィラデルフィア両市も破綻の可能性があると指摘。シカゴ市では7月に公立学校の教職員2100人を一時解雇。オークランド市もデトロイト市と似た状況。犯罪急増にもかかわらず、年金基金不足などを理由に100人以上の警察官を一時解雇。米国ではデトロイト市の破綻(手法)が他の自治体の先例になるという観測が出ています。
日本に単純に当てはめることはできませんが、「対岸の火事」と言い切ることもできません。スプロール化現象の是非、自治体の公会計・破綻法制のあり方、過去債務の考え方、世代間公平のあり方等々、デトロイト市の「チャプター・ナイン」適用申請を「他山の石」としなければなりません。
(了)