終戦記念日に当たり、戦争犠牲者に心から哀悼の意を表します。昨日、政府は「デフレはなくなりつつある」と記した月例経済報告を発表。しかし、目指すべきはコスト・プッシュ・インフレ(円安等に伴うコスト上昇インフレ)ではなく、ディマンド・プル・インフレ(景気回復に伴う需要拡大を映じたインフレ)。今後も経済動向を注視していきます。
8月2日、政府は、今後の経済運営にとって重要な2つのデータを発表しました。ひとつは2014年度の経済成長率。もうひとつは中期財政計画の骨子案。
ところが、前者は来年4月に消費税率を5%から8%に引き上げることを前提に試算している一方、後者は消費税率引き上げを考慮していません。
政府試算のこうした矛盾と不整合は、高度成長期以後の日本の悪弊のひとつ。また悪い癖が復活しています。
2014年度の経済成長率は、物価変動を除いた実質ベースで1.0%、物価変動を含む名目ベースで3.1%と見通しています。
主要な民間シンクタンクの平均見通し(ESPフォーキャスト調査)は実質ベースで0.57%。これに比べると、政府の見通しはやや高すぎる印象です。
政府と民間シンクタンクの見通しの差の主因は、消費税率引き上げの影響に対する考え方。要するに、政府は消費税率引き上げの「影響は出ない」と仮定している一方、民間シンクタンクは「影響が出る」と仮定しています。
民間シンクタンクが「影響が出る」と仮定する根拠は主に2点。第1は、税率引き上げ前のかけ込み消費の反動が出ること。第2に、仮に景気が回復したとしても、所得増加が物価上昇で相殺されること。
この2点を根拠に、民間シンクタンクは2014年度の個人消費が前年比マイナスと予測しているのに対し、政府は0.5%の増加を予測。全く逆です。
政府は、成長戦略やこれまでの緊急経済対策の効果が徐々に顕現化し、所得や雇用が改善することを想定しています。
政府、民間シンクタンクの予測、それぞれに「一理」あるものの、消費税率引き上げの最終判断をする秋口(つまり、あと1〜2か月後)までに、2014年度の経済成長率の見通しについて「決着」をつけることは不可能。政治の「決断」と「結果責任」に委ねるしかありません。
もちろん、足元(2013年度)の経済状況が好転していることが大前提です。
中期財政計画の骨子案には、消費税率の2段階引き上げの実施は明記されておらず、具体的な歳出削減策にも一切言及していません。
消費税率引き上げに関しては「経済状況等を総合的に勘案して判断する」と注記。2014年度経済成長率見通しの前提とは異なります。
今や「国際公約」となった日本の財政再建。国・地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス<PB>)赤字の名目国内総生産(GDP)比を、2015年度には2010年度に比べて半減するというのが「国際公約」。
そのためには、PB赤字額を2015年度までに約17兆円圧縮することが必達。国の一般会計ベースでもPBを8兆円改善する必要があります。
消費税率が10%まで引き上げられる場合、2015年度には約13兆円の税収増。しかし、時の政権が崩壊するほどの「決断」であったこの税収増は、待機児童解消などの「社会保障の維持・拡充」に使うのが当時の「三党合意」の最重要ポイント。決して、財政再建のためでありません。
ところが、最近の新聞・テレビの解説やコメントの中には、「消費税率引き上げを先送りしては、財政再建ができない」という論調のものが増えています。
「消費税率引き上げは社会保障のため」「財政再建は全く別次元の努力が必要」。この2点を改めて追求していかなくてはなりません。
もちろん、お金に色はありません。今まで社会保障のために確保していた財源「A」を、消費税率引き上げに伴う税収増で賄えば、「A」相当分は別の目的に使えます。
「A」相当分をそのまま財政再建に充当すれば、間接的ではあるものの、消費税率引き上げは結局、財政再建のためという構図になります。
その客観的事実を否定するものではありませんが、やはり「消費税率引き上げは社会保障のため」「財政再建は全く別次元の努力が必要」ということを再認識して、秋の臨時国会や今後の政治活動に取り組みます。
そういう意味で、昨年秋は予算担当の政調会長代理として「別次元」の努力を追求していました。各省庁に対して11月6日付で発出した文書(「来年度予算編成について<基本原則とチェックポイント>」全文書き下ろし)の有意性は普遍的なものであると今でも確信しています。
ご興味がある方は、僕のホームページにPDFファイルをアップしますのでご覧ください。この文書の内容は政府の公式文書にほぼ踏襲されたものの、予算編成作業中に衆議院解散。「別次元」の努力は道半ばで頓挫。残念です。
政権に復帰した現在の与党が、自らの手でこうした指示書を作成できるかどうかに日本の財政の命運がかかっています。
しかし、前途は多難。暗雲が立ち込めていると言っていいでしょう。
このメルマガを作成している今は8月16日午前。今日の中日新聞朝刊2面に前途多難を象徴するよく整理された記事が出ています。
見出しは「消費増税、社会保障のためなのに」「公共事業が食いつぶす」「地域公約で自民が推進」「経済再生を優先」となっています。
記事の要点は「大型公共事業を各地で乱発」ということであり、都道府県ごとの主要事業が一覧表になっています。
つまり上記の「A」の部分で新たな公共事業を行おうとしているとともに、経済再生を謳い文句にさらなる財源も投入して新たな公共事業を志向しているとの指摘です。
以前のメルマガでもご紹介しましたが、戦後の日本の公的資本形成(要するに公共事業)の対国内総生産(GDP)比は約5%。実額にして約750兆円。
同時期の欧米の平均は約3%。仮に欧米並みであった場合には、約300兆円の財源を他の目的に使うことができました。
しかも、この実額は昭和20年代からの予算上の実額を合算したもの。割引現在価値に引き直すと、1千兆円以上になるでしょう。
別の見方をすれば、それだけ過剰に自然を破壊しているということ。造ったものは、維持管理や更新の財源も必要になります。
過剰な財政負担と自然破壊によって構築し続けてきた「社会資本」。人口減少社会に入った日本、環境破壊が著しい日本において、これほど愚かなことはありません。
「社会資本」というと聞こえはいいですが、過剰なもの、不要不急なもの、将来世代に過度な財政負担を強いるものは、とても「資本」とは言えず、「社会負債」と表現するべきでしょう。
与野党・官民を問わず、あらゆる関係者が利益誘導や、不要不急の事業誘致等を止めなければ、日本は本当に深刻な状況になるでしょう。「あれば便利」というものは「なくても平気」ということです。
職責を全うするべく、頑張ります。
(了)