明後日から北方領土に渡航してきます。2島(歯舞、色丹)先行返還による日露平和条約締結の噂が聞こえてきますが、それでは残りの2島(国後、択捉)返還が困難になります。あくまで4島一括返還、または4島返還が懸案であることを日露両国が公式に認めたうえでの日露平和条約先行締結が適切な選択肢だと思います。
「フィンテック」という言葉が取り上げられることが多くなりました。既にご存じの読者には釈迦に説法ですが、まずは「フィンテック」の説明からスタート。
「フィンテック(FinTech)」は「金融(Financial)」と「情報技術(Information Technology)」の合成語。金融サービスと情報技術(IT)を組み合わせた新たなビジネスや技術の動き、またはその分野を総称する造語です。
「フィンテック」という造語の誕生時期については諸説ありますが、1990年代には既にシリコンバレー関係者が使っていたそうです。
2003年、米国の金融業界紙「アメリカン・バンカー」が「FinTech100」と題する企業ランキングを発表。「フィンテック」という造語が普及する契機となりました。
金融機関やその情報子会社、金融系システムインテグレーター、IT分野で活躍するベンチャー(スタートアップ)企業等が「フィンテック」に参入。
このうち、金融機関やその情報子会社、または金融系システムインテグレーターは「フィンテック1.0」、IT系スタートアップ企業や異業種からの参入企業を「フィンテック2.0」と区別する場合があります。
さらに「フィンテック2.0」に属する企業は、金融機関と提携する「共存型」と、金融分野に進出して金融機関とバッティングする「競合型」に分類可能です。
米国のみならず、欧州や中国では「フィンテック2.0」「競合型」が目立つのに対し、日本では「フィンテック1.0」「共存型」が中心。この傾向が続くと、「フィンテック」でも日本のガラパゴス化が進むかもしれません。
筆者が「フィンテック」という造語を最初に聞いたのは2010年頃。そして、一昨年辺りから「フィンテック」に関連する話題が急増。とくに、決済ビジネス(とりわけスマホ決済)に関する動きが加速しています。
例えばグーグル。昨年秋から米国内でサービスを開始した「アンドロイドペイ」。英国、豪州、シンガポールにも進出し、今秋には日本でもサービス開始の見込みです。
因みに、「アンドロイドペイ」利用には「アンドロイド4.4」以降のOSを搭載したNFC(近距離無線通信規格)対応のスマホが必要。スマホの更新、販促と連動した動きです。
グーグルのライバル、アップルも独自決済サービス「アップルペイ」を日本でまもなく開始予定。
日本で普及している「スイカ」「エディ(Edy)」等は国内専用。海外でも使える「アンドロイドペイ」「アップルペイ」進出は日本勢にとって脅威。米国「フィンテック2.0」両巨人の日本参入により、日本の決済ビジネス勢力図が激変するかもしれません。
さらに中国勢。電子商取引大手のアリババ(阿里巴巴)の「アリペイ(支付宝)」、テンセント(騰訊控股)の「ウィーチャットペイ(微信支付)」の日本国内での利用が拡大中。
訪日中国人観光客の取り込みを狙い、百貨店、家電量販店、ブランド店等が「アリペイ」「ウィーチャットペイ」に対応。既に国内1万店以上で利用可能と聞きます。
日本企業は帰国後の中国人観光客の囲い込みを企図し、中国国内での店舗展開等を強化していますが、逆に日本の決済ビジネスが中国勢に侵食される可能性があります。
「アリペイ」「ウィーチャットペイ」は「銀聯カード」と連動。2002年スタートの「銀聯カード」の後ろ盾は中国国務院、中国人民銀行。つまり国営カードです。
本部は上海。既に国内外500近くの企業・団体・組織が加盟。決済ビジネスだけでなく、カードビジネスへの影響も注視が必要です。
「フィンテック」によって、決済ビジネス、カードビジネスは激動の時代に入りつつあります。
金融産業は1950年代から、決済処理や顧客情報管理のために巨大システムインフラを保有する装置産業となりました。
そのため、金融機関の「勘定系」や「情報系(営業店系)」等の伝統的システムを原始的な「フィンテック」と称する場合もあります。
また、1980年代後半以降に普及したPC(パソコン)通信を利用したネットバンキングも「フィンテック」の系譜です。
この当時までは日米の「フィンテック」格差は大きくなかったと言えます。しかし、ちょうどその頃、米国ではアップルやマイクロソフトが興隆し、シリコンバレーを中心にIT企業が勃興。
1990年代後半以降、インターネットが日常的に普及し、米国では「フィンテック2.0」企業が急成長。
「フィンテック」はIT企業による革新的、破壊的金融サービスを意味するようになり、「金融機関によるフィンテック1.0はフィンテックではない」との指摘も聞きます。
2012年、「フィンテック」分析で定評のある米国調査会社(Javelin Strategy & Research)が「ギャング4人組(Gang of Four)」というタイトルのレポートを公表。
金融産業と金融サービスに変革をもたらすアウトサイダーという意味で、グーグル、アマゾン、アップル、フェイスブックを「ギャング4人組」と命名。
その後も状況は進化し、最新版(2015年)同社レポートでは「ギャング5人組」として旧4人組にペイパル(イーベイ)を追加。1998年創業のペイパルは「フィンテック」の先駆者的存在です。
同レポートは、アップルペイ、アンドロイドペイ、ペイパル、サムソンペイ、その他ペイシメントステムの攻防を取り上げ、決済ビジネスに焦点を当てています。
決済ビジネスの「フィンテック」としては2009年創業のスクエア(Square)も重要な存在。スクエアはスマホやタブレットによるクレジットカード決済を可能にしました。
小売店や飲食業にとって、クレジットカード決済には信用照会端末導入や決済手数料の負担が重荷。スクエアはこれを解消。信用照会端末と手数料不要のクレジットカード決済を実現しました。
電子決済市場の規模は、日本5兆円、米国30兆円、中国150兆円と推定され、中国が断トツ。中国のスマホ決済市場が世界の「フィンテック」動向を左右します。
一方、世界の「フィンテック」投資額は、2013年30億ドル、2014年100億ドル、2015年200億ドルと急増。2020年には約500億ドルと予想されています。
そのうち米国が約7割を占め、米国勢は中国市場進出を展望。一方、中国勢は米国「フィンテック」企業への資本・人材参加を進めており、両者相乱れています。
「フィンテック」の動きが加速している背景には2つの要因が大きく影響しています。第1はコンピュータ処理能力の飛躍的向上。
PCが1人1台程度に普及した2000年頃。市販PCの処理能力はアポロ11号(1969年)が搭載していたコンピュータを遥かに上回っていました。
そして今、スマホが1人1台。そのスマホの処理能力は2000年当時のスーパーコンピュータ(10Gフロップス)に対して300Gフロップス。つまり30倍。
フロップス(FLOPS、Floatingpoint Operations Per Second)はコンピュータの性能(1秒間の演算能力)指標のひとつです。
第2はユーザーの価値観の変化。ミレニアル(Millennial)世代に顕著です。ミレニアルは千年紀という意味。1980年代以降、2000年前後までに生まれた世代を指します。既に40歳近くに達しており、米国では人口の半分近くを占めます。
ミレニアル世代は住宅ローン、教育ローン、将来に備えた資産運用ニーズ等に直面しており、金融サービスユーザーの中核層。
インターネット普及後に育った情報リテラシーの高い世代。彼らにとって伝統的金融サービスは億劫で親しみがなく、とくに窓口対応は手間がかかり、不親切な忌避すべき対象。
伝統的金融機関と付き合うよりも「ギャング5人組」等が提供する新しい金融サービスを嗜好します。
中高年世代と価値観やライフスタイルが異なるミレニアル世代の割合が漸増することから、「フィンテック」は不可避の流れ。「フィンテック」は金融ビジネスの新しい「エコシステム(生態系)」を構築しつつあります。
「フィンテック」の領域は、預金、投資、融資、決済、コンサルティング(ファイナンシャルマネジメント)等、伝統的金融サービスの全てに波及。
こうした中、主要国では「フィンテック」推進を国家戦略と位置づけ、新たな産業振興を目指す動きが加速しています。
筆頭は英国。2014年8月、オズボーン財務大臣(当時)が「英国をGlobal Fintech Capitalとして発展させる」と宣言。政府による「革新計画(プロジェクト・イノベート)」をスタートさせ、関連法制の見直しを進めています。 2番手はシンガポール。2015年7月、金融監督局(MAS)が「フィンテック」に関する専門組織「FTIG(Fintech & Innovation Group)」を創設。
翻って日本。2014年から金融庁、2015年から経産省が「フィンテック」対応をスタートさせ、今年(2016年)の通常国会(筆者の所属する財政金融委員会)で銀行法等を改正。
金融機関の持ち株会社規制を緩和し、IT等の「フィンテック」関連分野(つまり金融以外の異業種)への進出を認める内容ですが、あくまで「フィンテック1.0」への対応。
オンラインショップやIT関連の一部企業が金融サービスに進出しているものの、日本では「フィンテック2.0」対応が遅れ気味。この点が課題です。
最近では保険の世界でも「フィンテック」が台頭。従来の保険商品の常識が変わるかもしれません。
保険は「大数の法則」が大前提。つまり、誰が傷病や死亡に遭遇するかわからないので、契約者(ユーザー)個々人の確率を無視して、契約者全員(大数)から保険料を原則一律に徴収することで保険商品が成り立っています。
もちろん自動車保険や医療保険は、年齢、事故歴、病歴等によって契約者間で一定の保険料格差を設けていますが、「フィンテック」はこれを個々人対応に進化させます。
例えば、自動車に通信機器を装填し、ドライバー(契約者)の運転情報を取得。その情報から個々人の事故確率を試算して保険料を個別査定。
契約者のウェアラブル端末やスマホから、運動量や食生活、摂取カロリー等の情報を把握し、医療保険や生命保険の保険料を個別査定。
「大数の法則」に拠らない言わばオーダーメイド商品。良い面もありますが、保険料が高額査定され、高額すぎて契約できない「保険難民」の出現という新たな問題も惹起します。
既にこうした動きは現実化しつつあり、保険(Insurance)と技術(Technology)を融合した「インシュアテック(Insurtech)」という造語も登場。
新機軸の自動車保険の呼称は「テレマティクス保険」。「テレマティクス」は「テレコミュニケーション(情報通信)」と「インフォマティクス(情報工学)」を合体させた造語。
カーナビ等の車載器とスマホ等の通信機能や通信端末を連動させ、情報やサービスを提供するシステム全体のことを「テレマティクス」と言います。詳しくはメルマガVol.323(2014年11月6日号)をご覧ください(HPから閲覧可能です)。
「フィンテック」の影響はこうした金融サービス、金融商品にとどまらず、金融政策にも及びます。電子決済や電子マネーがさらに普及すると、従来の金融政策やその手法が通用するか否かという問題です。この点については、別の機会に改めて深く考えてみます。
「フィンテック」に先行して「IoT(Internet of Things、モノのインターネット接続)」という新語が浸透しましたが、「フィンテック」は言わば「IoS(Internet of Service、サービスのインターネット接続)」。造語、新語ラッシュの昨今、このメルマガ発の新造語として「IoS」を提案しておきます。
昨年6月、シンガポール通貨監督庁(MAS)の幹部(R.メノン氏)が「フィンテック」の不可逆的な動きを「The Geek shall inherit the Earth(オタクが地球を我が物とする)」というシリコンバレーの有名なフレーズを引用して説明したそうです。
楽しくも凄い時代になりました。明らかに新たな産業革命が進行しています。
(了)