昨日(25日)、WHO(世界保健機関)は南アフリカで新型コロナウイルスの新たな変異株B.1.1.529を検出したと発表。ヒトの免疫反応を回避する特性を持つ恐れがあるとしており、「これまでで最悪の変異株」とのコメントも報道されています。新たな変異株の感染拡大は初期段階にあり、症例のほとんどは南アフリカの1つの州に集中しています。とは言え、要警戒。入国規制、水際対策を安易に緩めることは禁物。しっかりとフォローしていきます。
グラスゴーでのCOP26では、報告書の最終版で石炭火力発電に関する表現が「段階的廃止」から「段階的削減」に修正され、物議を醸しました。
グレタ・トゥンベリさんはCOP26を「失敗」と酷評し、世界各地で若者を中心に抗議デモが発生。気持ちはよく理解できるものの、カーボンニュートラルは「言うは易し、行うは難し」です。
COP26直前に閣議決定された日本の第6次エネルギー基本計画も「書くは易し、行うは難し」。2030年のエネルギー構成目標、再エネ36から38%、原子力20から22%も達成は困難です。
「どんなにコストが高くなっても再エネに移行する」という固い決意で臨むのも一案です。しかし、自分の企業や家計の負担となれば、反対する人が多くなるでしょう。
安くて安定的な再エネが普及するというのが、現状で考えられるベストシナリオ。短期間でそれが困難ならば、その間の善後策が必要になります。
賛否は別にして、事実や現状を理解することが重要です。客観的認識と冷静な議論が不得手であることは日本人及び日本社会の特徴です。以下、原子炉開発の動向を整理します。
原子炉には、冷却材として軽水(普通の水)を使う軽水炉のほか、重水を使う重水炉、炭酸ガスやヘリウムガスを使うガス冷却炉などがあります。
日本の商業用原子炉は英国から導入したガス冷却炉(GCR、Gas Cooled Reactor)からスタート。その後、GCRに比べてコンパクトで建設費が安い軽水炉に移行しました。
現在、日本にある商業用原子炉は全て軽水炉で、沸騰水型原子炉(BWR、Boiling Water Reactor)と加圧水型原子炉(PWR、Pressurized Water Reactor)に分類されます。
BWRは核分裂による熱エネルギーで作られる蒸気で発電用タービンを回します。PWRは原子炉の中でできた高温高圧水を蒸気発生器に送り、原子炉内の水とは別の水を沸騰させた蒸気で発電用タービンを回します。
日本は軽水炉の安全性、信頼性、運転性などを向上させるため、改良型沸騰水型炉(Advanced BWR)を開発しました。原子炉圧力容器の外に設置してある再循環ポンプを圧力容器の中に設置し、ポンプ回りの配管をなくして単純化した点や、制御棒を動かすために水圧駆動に電動駆動を加えた点が改良されています。
研究開発用原子炉として冷却材にナトリウムを使う高速増殖炉(FBR、Fast Breeder Reactor)もあります。速度の速い中性子を生み出し、核分裂連鎖反応に導きます。
高速増殖炉は中性子の数に余裕ができるため、それが核分裂しにくいウラン238に吸収され、燃料として使えるプルトニウム239を生み出します。
高速増殖炉は炉心のまわりを天然ウラン、または劣化ウランで囲む構造(ブランケット構造)になっています。炉心から出る中性子がブランケットに含まれるウラン238に吸収され、プルトニウム239に転換します。
このように高速増殖炉は、主にプルトニウムを燃料に発電を行いながら、ウラン238がプルトニウム239に変わる割合を大きくすることで、発電で消費した以上のプルトニウム239をつくり出す(増殖する)ことができます。
天然ウランはウラン235とウラン238の2種類。ウラン235は核分裂して燃えるものの、ウラン全体の0.7%程度。ウラン235を燃やす軽水炉だけでは燃料の持続的確保は困難。
燃えないウラン238は原子炉の中で中性子を吸収して燃えやすいプルトニウム239に転化。その性質を利用し、プルトニウム239の周囲にウラン238を入れておくと、プルトニウム239が燃えると同時にウラン238が新たにプルトニウム239に転化。燃えた量よりも多くのプルトニウム239を生成します。
そのプルトニウム239を取り出して再利用すれば、無限のエネルギーが生成できるというのが核燃料サイクル。プルサーマルはプルトニウム239で燃料を作ることを意味します。
それを担うのが高速増殖炉です。プルトニウム239とウラン238の反応は、ウラン235を燃焼させる場合よりも高速高温の核分裂反応となるために「高速」という冠がつきます。かつては燃料が増える「夢の原子炉」と言われていました。
その実験用原型炉が「もんじゅ」(福井県敦賀市、1983年着工、1991年運転開始)であり、燃料はMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)です。
1995年にナトリウム漏れと火災事故が発生。2007年に修復し、2010年5月運転再開。しかし、同年8月に再び装置落下事故が発生し、再休止。2018年廃止が決まりました。
ロシア、中国で開発が続いていますが、再利用する燃料以外の使用済燃料の最終処分が難題。現在、最終処分場は世界中でフィンランドのオンカロ(オルキルオト島)だけです。
1994年、フィンランドは国内全ての核廃棄物を国内で処分することを決定。2000年、オルキルオト島を地層処分(長期地下貯蔵)場所として選定。断層等の影響を受けないと予想される強固な花崗岩盤であったことが選定理由です。
使用済燃料に含まれるプルトニウムの半減期は2万4000年。生物にとって安全なレベルまで放射能が下がるには約10万年。その間、使用済燃料はオンカロの地下に封鎖され続けます。因みに、「オンカロ」はフィンランド語で「隠し場所」を意味します。
フィンランド以外の国々では、最終処分場の用地選定段階。設置目標の早い順に列挙すると、フランス(2025年)、スウェーデン(2029年)、ドイツ(2035年)、日本(2030年代後半)、アメリカ(2048年)、スイス(2050年)、ベルギー(2080年)などです。
日本国内の最終処分場を決めることは容易ではありません。カーボンニュートラル実現までの善後策として原子力を活用する場合でも、この問題は残ったままです。
福島事故の教訓から安全性の高い原子炉の研究開発が主要国で行われています。その中でも小型モジュール原子炉(Small Modular Nuclear Reactors、SMNR)、中小型炉(Small and Medium Reactors、SMR)に注目が集まっています。総称してSMRと記します。
IEA(国際原子力機関)の分類では、300MW以下が小型、300から700MWまでが中型。従来型原子炉比で概ね3分の1から4分の1程度の発電能力です。
小型化が求められる背景は、非常用電源喪失等で冷却機能が失われても、メルトダウンを起こさない構造設計への期待です。SMRはそうしたイノベーション追究の一例です。
SMRは核分裂を起こす炉心やタービンに蒸気を送るシステム等を小型の発電モジュールに一体的に収納。1モジュール当たりの電気出力5万kW程度、高さ30m以下の規模感。
SMRのキーワードは「小型」「モジュール」「多目的」の3つ。以下、経産省等からヒアリングした内容(SMRの特徴)を整理します。
第1にモジュール化。設備はモジュールとして工場で組み立て、立地場所に輸送。モジュール規格化による品質向上とともに、小型であるため、あらゆる場所に輸送可能です。
第2に、それに伴う工期短縮、コスト軽減。規格化部材を現地で組み立てること、大規模プラントと違って天候に影響されにくいこと等が工期短縮、コスト軽減に寄与します。
第3に安全性向上。冷却機能が失われても、小型化によって自然冷却を可能とします。モジュールをプール内に設置する等の構造によって、本来の冷却機能喪失、運転員操作不能のような事態にも耐えうる安全設計(受動安全)を志向しています。
SMRは体積の割に大きな表面積を有する構造となるため、原子炉の熱はプール内に拡散される構造を目指しているそうです。
第4に、燃料交換なしに運転できる期間を長期化させ、核物質の取り扱いや輸送を最小限にすることで事故確率低下を企図。
第5に、上記の諸対応の結果、原発に設定される緊急時避難計画区域の縮小や、電力需要がある場所近隣への原発設置検討を可能化。
そのことは第6の特徴につながります。大規模なインフラ整備が不要であるため、需要規模の小さい地域、僻地、離島等でも利用可能となります。一方、需要に応じて数基を組み合わせることで都市部にも対応可能。つまり、多様な状況に対応できます。
第7に、発電用途以外に、水素製造、医療等、多様な用途に利用可能です。上記第6の特徴から派生する利用方法です。
米国政府は2018年4月、オレゴン州立大学内に研究原型炉を有するNuScale社のSMR開発支援を発表。2007年創業の同社はSMR開発の最先端企業です。既にエネルギー省から4億ドル超の資金支援を受けています。
同社は軽水炉のSMR化を企図。モジュールは、圧力容器、蒸気発生器、加圧器、格納容器を含む一体型パッケージ。当局からの型式認証取得を目指しています。
モジュール出力は8万kW未満で通常加圧水型原子炉の5%程度。格納容器ごとプールに入れて動かします。冷却機能喪失時には、プール水による自然冷却を想定。
それぞれ独立したタービン発電機と復水器に接続。1モジュール当たりの出力は小さいものの、最大12モジュールを並べて運転することで従来の原子炉に近い出力が出ます。
初号機建設はアイダホ国立研究所(INL)敷地内に計画されており、米原子力規制委員会(NRC)の審査も最終段階。NRCは昨年9月に同社SMRに標準設計承認を発給。早ければ2026年にも稼働開始と見込まれています。米国ではビル・ゲイツ氏が会長を務めるテラパワーなど、10社以上の企業がSMR開発に参入。SMRは2030年以降に普及すると予測されています。
同社の計画には日本の日揮、IHI(旧石川島播磨)が出資し、建設事業や小型炉設計への進出を企図。韓国斗山重工業も参画し、主要機器供給を予定しています。
日立はGE と合弁会社を設立し、SMRであるBWRX-300(出力30万kW)を開発中。米国で初号機建設を目指し、既にNRCに安全審査項目に関する技術レポートを提出。北米で2030年頃の実用化を目指しています。カナダでの建設も視野に入れています。
日立とGEの合弁会社はPRISM(Power Reactor Innovative Small Module)というSMRも開発中です。原子炉冷却に水ではなくナトリウムを使う高速炉。米国エネルギー省はPRISMをベースとした多目的試験炉(VTR、出力30万kW)をやはりINL内に建設し、2030年までに運転開始する計画です。空冷方式を採用しています。
日本企業では、東芝が冷却材に液体ナトリウムを使う高速炉、三菱重工が蒸気発生器や加圧器も原子炉容器内に統合するさらに小型化したSMRを開発中です。
英国ジョンソン首相も開発支援を表明。英ロールス・ロイスがPWR加圧水型軽水炉の技術を転用しつつ、IT活用で運転等の効率化を図ったSMRを開発中。
ロシアは砕氷船、北の辺境地での陸上配備、資源開発基地、水上原発等での実用化を計画。中国は遠隔操作によるSMR新技術を開発中。海南島や南シナ海離島及び海上での電力供給を目指しています。
SMRよりもさらに小型の原子炉「マイクロリアクター」も開発されています。発電出力50MW未満の「プラグアンドプレイ(適時給電)」方式の原子炉です。
医療、僻地、軍事基地等での小規模需要に対応するうえで理想的であり、米エネルギー省が開発支援に着手。将来的には都市部でも「オールウェイズオン(常時給電)」方式で利用できる可能性を秘めています。
2019年末、原子力スタートアップ企業Oklo社が出力1.5MWのマイクロリアクター「オーロラ(Aurora)」を公開。米エネルギー省からINL内での建設認可を取得。「オーロラ」は原子炉というより山小屋のように見える構造物です。
しかし「オーロラ」はこれまで潜水艦での利用実績しかない液体金属冷却炉という構造であるため、実用化、一般利用の承認を得るのは簡単ではないでしょう。
SMRが緊急事態に直面してもメルトダウン(炉心溶融)しないとの主張の重要な論拠は2つ。ひとつは使用核燃料がわずかであること、もうひとつは空気やプール水による自然冷却が可能なことです。
この主張も含め、SMR開発で語られる安全性、低コスト、多目的、工期短縮等々の論点には異論もあります。そのほかにも、SMRのフィージビリティ(実現可能性)については熟考が必要な点があります。
第1に経済性。ポイントは3つあり、ひとつは大量生産できないこと。大型炉よりは多数製造できる可能性はあるものの、大量生産による規模の経済性は期待できません。
さらに、大型化による規模の経済性も追求できません。火力発電の場合、ある段階までは大型による効率化、低コスト化が期待できますが、小型化がセールスポイントのSMRは論理矛盾に陥ります。
また、標準化による規模の経済性も実現困難です。実はSMRは新しい技術ではありません。ロシア(ソ連)が1954年に稼働させた世界初の原子力発電所の出力は5MWです。
以来、原子力船等の用途で小型原子炉がロシア、中国、インド等で製造され、約70年間に18類型、57種類の異なる型が設計、開発されています。つまり、標準型がありません。
「規模の経済性」を働かせるための、大量生産、大型化、標準化の「3つの経済性」のいずれも享受できないのがSMRです。
第2にコスト。とくにセキュリティと廃炉のコスト。原発燃料はテロリストのダーティーボム(爆発よりも毒性物質拡散を目的とした爆弾)製造のためのターゲットです。SMRであってもセキュリティコストは通常原発と同様にかかります。小型化による分散化は、かえってコスト増になる可能性もあります。
通常原発で10億ドル(期間約100年)と言われる廃炉コストも課題。NuScale社は60MW原子炉12基、合計720MWの設備クリーンアップコストを7.2億ドル程度と試算していますが、実際にやってみないとわかりません。
米国のSMR開発関係者に聞くと、集中型の廃炉処分場で管理されることを期待する向きもありますが、立地を受け入れる国、地域を探すのは容易でないでしょう。
第3に保険。原発を有する全ての国は民間賠償責任に上限を設定し、それ以上の賠償責任は国(最終的には納税者)に負わせる法律を制定しています。
現在、米国民間保険の上限は130億ドル(1兆円強)。福島事故に伴う国を含む災害対応、被害補償規模(推計1兆ドル超)を鑑みると、民間上限を上回る部分の経済的負担に耐えうる国は世界的に希少な存在です。
こうした懸念もある中で、それでもSMR開発に各国が前向きな理由は、カーボンニュートラル実現が容易でないという認識(本音)に起因します。
地球温暖化も人類を危機に直面させますが、その一方、原発も制御不能に陥れば多大な危機をもたらします。その両面を睨みつつ、とりわけ米国でSMR開発は加速しています。
米国では非化石電力の3分の2が原子力ですが、既存原発の大半は規制上の寿命が到来。通常原発の建設コストは膨大なことから、SMRに着目しています。
バイデン政権は電力全てを「クリーンエネルギー」にする目標を掲げ、再エネと原子力双方に注力。今年3月発表のインフラ整備計画でもSMRへの開発投資が盛り込まれました。
4月の日米首脳会談で締結された「日米気候パートナーシップ」の中にも、両国の協力分野としてSMRを明記。日本も経産省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中で成長期待分野として原子力産業を掲げ、SMRの海外プロジェクトと連携する日本企業支援を表明。
しかし、あくまで海外プロジェクト支援。福島事故を受けた国民感情に配慮し、経産大臣も「SMRを含めて、新増設、リプレースは想定していない」と発言しています。
SMR実用化にはまだ時間がかかるため、温暖化対策としては間に合いません。また、気候変動に変化を生じさせる規模でSMRを稼働させることは困難との指摘もあります。
さらに、SMRでも事故リスクはゼロにはできません。プール水による自然冷却案も、水が漏出したり、蒸発してしまえば機能しなくなります。
加えて、現在の規制の枠組みは大型原子炉を想定して作られています。SMR用の原子力規制の内容検討にも時間を要します。2019年、米欧諸国主導でSMR規制に関する国際的議論も始まりました。日本も情報収集に注力する必要があります。
(了)