政治経済レポート:OKマガジン(Vol.74)2004.6.16

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


議員会館705号室からメルマガをお送りします。さきほど、第159回通常国会が閉会し、部屋に戻ってきました。年金国会が終わったと言いたいところですが、年金制度を2017年度まで今回強行採決された内容のまま放置するわけにはいきません。審議の過程でさまざまな事実が明らかになりましたので、むしろこれからが新しい年金制度を本格的に検討する正念場です。

1.4つの金利上昇

年金制度に気をとられているうちに、金利上昇懸念が現実のものとなってきました。累積する財政赤字と異常な超金融緩和(ゼロ金利+量的緩和)政策を背景に、金利上昇懸念が指摘されるようになってずいぶん久しい感じがしますが、国会が終盤になってスルスルと金利が上がってきました。

今週初(14日)には長期金利(国債の利回り)が1.855%まで上昇(国債の価格は低下)しましたが、これは2000年(平成12年)秋以来、3年半ぶりの水準です。どうして上がってきたのでしょうか。マーケット関係者には「釈迦に説法」ですが、読者の皆さんの中には詳しくない方もいらっしゃると思いますので、少し整理をしてみたいと思います。

第1の理由は景気回復です。景気回復に伴って金利が上昇するのは「良い金利上昇」です。景気回復の証拠は、企業の設備投資に顕著に表れています。今年上半期の企業の設備投資資金の市場調達(増資など)は、前年比4倍に達しています。


第2の理由は、物価上昇です。昨今、原油、鉄鋼などの原材料や素材市況が高騰しており、こうした動きに伴って金利が上昇しているのです。言わば「仕方のない金利上昇」です。景気回復を反映した動きという面もありますが、超金融緩和政策の結果という見方もあります。

第3の理由は、マネーの国債から株へのシフトです。景気回復に伴って株価の値上がり期待が高まり、投資家のマネー(投資資金)が国債から株に流れているのですが、これは「少し心配な金利上昇」です。株価が上がるのは結構なことですが、長期金利(国債金利)が上昇し、国債価格が下落することは、国債の利払い負担が増す国や、国債を大量に保有している金融機関にとっては困ったことです。なお、もともと国債にマネーが集まっていたのも、超金融緩和政策の結果です。

第4は、「困った金利上昇」です。多くの人が長期金利の上昇を予測し始めると、具体的な裏づけなく金利を上昇させる取引が広がります。いわゆる、投機的な取引です。国債の先物を売る動きや、あるいは狼狽的(損切り的)に国債の現物を売る動きが広がります。

「良い金利上昇」、「仕方のない金利上昇」、「少し心配な金利上昇」、「困った金利上昇」の4つが混在していることから、それぞれがどの程度影響しているのかを、よく見極めることが大切だと思います。

2.水中のビニール袋

ここで想像力たくましく、水の中にビニール袋が沈んでいるシーンを思い浮かべてください。そのビニール袋の中に、まず「良い金利上昇」という空気が入りました。さらに、「仕方のない金利上昇」、「少し心配な金利上昇」、「困った金利上昇」という空気も入りました。ビニール袋の中の空気は膨らみ、そのまま水面に向かって浮上(金利上昇)しようとしています。

浮上(金利上昇)を抑えるために、ビニール袋には重りがついています。それは、異常な超金融緩和政策という重りです。ところが、この重りは、浮上を抑える一方で、空気を噴き出して、ビニール袋にさらに浮力を加えています。何やら矛盾していますね。

つまり、超金融緩和政策自体が金利上昇の4つの理由を生み出している面があります。景気回復を生み出していることは、もちろん悪いことではありません。但し、度が過ぎた超金融緩和政策は、非効率な企業の構造改革を遅らせているとも言えます。他の3つの理由は、まさしく超金融緩和政策自身が直接的に生み出している現象という見方もできます。表現が適切ではないかもしれませんが、マッチポンプという面があるということです。

さらに想像力を高めてください。浮力を増し続けるビニール袋を、浮上(金利上昇)しないように抑え続ければ続けるほど、いよいよ重り(超金融緩和政策)の効果がなくなったり、重りをはずした時には、急激に浮上することになります。

急激な浮上は事故のもとです。余談ですが、僕はスキューバダイビングのインストラクターでもあります。急激な浮上は肺の過膨張や破裂を招き、大きな事故につながります。1分間に18メートルの浮上速度を守らなくてはなりません。さて、金利上昇に求められる安全な浮上速度はどのぐらいでしょうか。

いずれにしても、いつまでも異常な超金融緩和政策を続けていると、事故の確率を高めることだけは確かなようです。重りを減らすペースや、重りをはずすタイミングはどうすればいいのでしょうか。

3.インフレ参照値

さて、重りを減らすのも、はずすのも、言うまでもなく日銀の仕事です。浮力を、うまくコントロールしてほしいものです。

ところで、最近では「インフレ参照値」という言葉を新聞の経済面で時々見かけます。日銀が「インフレ参照値」を導入するか否かが話題になっていますが、「インフレ参照値」の役割には2つの見方があります。

ひとつは、日銀が異常な超金融緩和政策をやめるタイミングを計るための判断基準であるという見方です。

もうひとつは、日銀が金利上昇を容認する、超金融緩和政策をやめるというマーケットの予測を沈静化するための仕掛けだという見方です。

前者であれば、重りを減らしたり、はずしたりする基準と言えます。後者であれば、さらに重りを追加するというイメージです。まったく正反対の役割です。さて、どちらが適切なのでしょうか。

昨年以前は、「インフレターゲティング」という言葉が、同じく新聞紙上を賑わしていました。つまり、インフレの目標値を定めて、それを達成するような仕組みのことです。これも、インフレを達成するための目標なら、重りを減らしたり、はずすことを意味します。一方、インフレを一定水準に抑えることを目的とするならば、むしろ重りを追加することを意味します。どちらだったのでしょうか。

金利上昇懸念が現実のものとなってきたことから、日銀には、こういう時こそ説明責任を果たしてもらいたいものです。「インフレ参照値」は、重りを減らす、重りを増やす、いったいどちらを目的とする手段なのでしょうか。

メルマガ71号の冒頭で、「理由が何であれ、景気や株価が回復すること自体は結構なことです。しかし、理由が何であるかをよく理解しておかないと、次の一手を間違えることになります」とお伝えしました。また、過去のメルマガでは、「異常な政策の背景では異常な事態が起きている可能性が高い」ことを、何度も指摘させて頂いています。

日銀には、現在の景気回復、株価上昇、金利上昇の理由に関する日銀の認識(考え方)を明らかにし、異常な超金融緩和政策を、できる限り早く脱却することを期待したいと思います。因みに、福井日銀総裁は、昨日の記者会見で「現在の金利上昇は正常な動き」と発言されるにとどまっています。「インフレ参照値」が追加的な重りではなく、重りを減らし、はずすための基準であることを祈ります。

ダイビングでは、浮力(浮上速度)コントロールの失敗は人命にかかわる事故につながります。バブルの発生と崩壊の過程では、多くの企業経営者や国民が、経営破綻や経済苦によって自ら命を絶ちました。もちろん、金融政策が直接の原因ではありませんが、政治家や政策担当者は、経済運営の失敗がさまざまな悲劇を生み出すことを忘れてはなりません。

(了)


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