政治経済レポート:OKマガジン(Vol.99)2005.6.24

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


経済産業省幹部による公金(税金)を使ったインサイダー取引事件が発覚しました。対象銘柄はこともあろうにカネボウ株。カネボウは、昨年産業再生機構に持ち込まれ、その後粉飾決算が発覚。その粉飾決算を契機に、先月、カネボウの東証上場廃止問題が物議を醸したばかりです。その結果、現在は東証自身の自主規制機能を巡る問題がクローズアップされています。このメルマガでは、産業再生機構の問題を再三お伝えしてきましたが、今回の一件で懸念していた点が杞憂ではなかったことが明らかになりました。東証問題と絡めて、改めて論点を解説させて頂きます。蛇足ですが、国民の皆さんはもっと怒る必要があります。中国では、汚職や経済犯罪で何人もの官僚が死刑になっていることをお伝えしておきます。

1.1.何が核心か(1)東証

リード部分にも書きましたが、カネボウの上場廃止問題を巡って、現在、東証自身の自主規制機能の取扱いがクローズアップされています。

つまり、先月、カネボウを上場廃止にした東証の自主規制機能(上場を認めたり、廃止したりする権限)を東証から切り離すべきか、そのまま維持すべきかという論争です。維持すべきと主張している中心は東証自身です。東証の立場としては当然の主張だと思います。

一方、切り離すべきという主張には2種類あります。ひとつは、自主規制機能を東証から隔離して独立公正な組織に運営させないと、上場や上場廃止を巡って様々な圧力を受けるという懸念に基づく主張です。僕はこちらの立場です。もうひとつは、上場や上場廃止を巡る判断に圧力をかけるためには、東証から自主規制機能を切り離した方が便利という発想に基づく主張です。さて、金融庁や経済産業省はどちらの立場でしょうか。

なお、この論争は、東証自身の上場計画が絡んで論点が複雑になっていますが、今回はこの点には触れません。ご興味がある方はホームページからバックナンバー(Vol.96<2005.5.14>)をご覧ください。

いずれにしても、東証の自主規制機能、東証自身の上場計画を巡る論点は、カネボウ問題が契機となってクローズアップされました。こういう論点が明らかになることは結構なことだと思いますが、カネボウ問題の核心とは全く別次元の話です。今後、東証問題はカネボウ問題と峻別して虚心坦懐に議論することが大切です。

では、カネボウ問題の核心とは何なのでしょうか。

2.何が核心か(2)産業再生機構

産業再生機構は一昨年春に経済産業省主導の下で発足しました(Vol.44<2003.3.12>、Vol.46<2003.4.14>参照)。日本経済の救世主という鳴り物入りで誕生しましたが、業務開始後1年近く経過しても再生対象企業の持ち込みが少なく、看板倒れの状況が続いていました。そんな折に、初の大型案件として登場したのがカネボウです。

日本には企業再生のための法制が整備されているので、ヌエ(鵺)のような存在の産業再生機構の必要性は乏しいというのが僕の一貫した主張です。特定の企業だけが救済されることは他の企業に不公平感を抱かせるほか、債権放棄や減免を求められる債権者も納得がいきません。

既にある法制に従って淡々と企業再生に取り組めばいいのに、なぜヌエのような産業再生機構を新たに作る必要があったのでしょうか。

今回発覚した不祥事に使われた公金(税金)は、新聞報道によれば1988年頃からプールされ、代々の経済産業省幹部に引き継がれていたそうです。歴代の幹部は、この資金を使って株取引や遊興費に流用していました。関係者の皆さんは日本の官僚でよかったですね。中国なら死刑かもしれません。

カネボウが産業再生機構入りするかどうかが連日報道されていた昨年2月から4月にかけて、経済産業省幹部はカネボウ株によるインサイダー取引を行っていました。最終的にカネボウが産業再生機構入りすること、つまり、株価が上がることを見越した取引です。

当時、「経済産業省はずいぶん強引に産業再生機構入りを進めているなぁ」という印象を抱いた人が多いと思いますが、こういう背景があったとは知りませんでした。納得です。

しかも、産業再生機構はカネボウの資産査定(デューデリジェンス)を十分に行わないまま、カネボウを引き受けました。いや、もっと正確に言えば、資産査定の結果を正直に公表しないまま引き受けを決定したのです。

産業再生機構入りしなくてはならないほど業績が悪化していたことから、当然、直前までの好業績に疑問を抱くのが筋です。その時点で過去の粉飾決算を疑ってかかるべきでしょう。実際には、既に粉飾決算が分かっていたことは間違いありません。

つまり、カネボウが本来は産業再生機構入りできない状況であることを知りながら、強引に産業再生機構入りさせたということです。これを法律違反、犯罪と言わずして、何と言うのでしょうか。しかも、その背後で、監督官庁である経済産業省が公金を横領してカネボウ株でインサイダー取引をやっていたわけですから、開いた口が塞がりません。

その粉飾決算が今年の春になって明らかになりました。そこで、東証が上場廃止を検討し始めたところ、産業再生機構はいち早く「上場廃止すべきではない」という意見書を公開しました。越権行為です。

今回の不祥事が発覚したことで、意見書を公開した時点でもインサイダー取引が行われていたと疑われても仕方ありません。経済産業省には説明責任があります。

結局、東証はカネボウを上場廃止しました。その結果、前段でご説明したような自主規制機能を巡る論点がクローズアップされたのです。それ自体は東証自身の上場問題とも絡めていずれ議論しなければならない論点だったのですが、クローズアップされた経緯だけを考えると、東証にとってはいい迷惑です。東証も産業再生機構や経済産業省に対して抗議すべき立場でしょう。

3.何が核心か(3)経済産業省

ヌエとは、平家物語や源平盛衰記に登場する怪物です。平家物語では、頭が猿、胴が狸、尾は蛇、源平盛衰記では、頭が猿、背は虎、足は狸、尾は狐と記されています。

産業再生機構は、企業の再生法制や破綻法制の枠外の組織です。一方、民間金融機関を中心に自主的に作られた私的整理のガイドラインにも準拠しません。組織形態は株式会社ですが、株主は100%政府。民間金融機関が自主的に対象企業を持ち込む建て前でしたが、実際には民間金融機関に様々な圧力をかけました。しかも、東証の自主規制機能にも白昼堂々と口をはさむところは、夜しか出てこないヌエよりもっと始末に負えない怪物です。

どの企業が対象になるのか。選定基準は何か。債務減免の負担は誰が負うのか。不透明なことばかりです。こういう状況では、様々な不公正な利権が発生する蓋然性が高いので、ヌエのような産業再生機構は設立すべきではありませんでした。

この産業再生機構を作ることを強力に主張したのは経済産業省。その経済産業省で発覚した今回の不祥事。カネボウ以外の他の対象企業を巡る株取引や利権も疑ってかかる必要があります。昨年夏にダイエーが産業再生機構に持ち込まれた経緯も気になります(VOl.82<2004.10.12>参照)。

産業再生機構はヌエの隠れ蓑にすぎず、本当のヌエは経済産業省かもしれません。

カネボウを巡る昨年来の展開に登場した、産業再生機構、経済産業省、金融庁、東証。それぞれに様々な問題を抱えていますが、核心は経済産業省です。東証の自主規制機能や上場問題という他の論点に目をそらされることなく、経済産業省、いや本当のヌエの実態について解明する必要があります。

4.南無八幡大菩薩

今を去ること約800年前、第76代近衛天皇、第78代二条天皇の寝所に夜な夜な現れたと言われるヌエ。そのヌエを退治したのは源頼政です。源頼政は「南無八幡大菩薩」と唱えて弓を引き、見事射落としてヌエは地に落ちたと言われています。以来、源頼政は弓の名手として知られています。

経済産業省の信頼はヌエと同様に地に落ちました。自らの使命である産業再生、企業再生に係わる政策をインサイダー取引や公金横領の仕掛けとして悪用した罪状は万死に値します。この際、自発的に解体を申し出るべきでしょう。

司法当局には平成の源頼政となることを大いに期待したいと思います。

ところで、カネボウにしろ、経済産業省にしろ、真面目に働いている多くの社員、職員の心痛は想像に難くありません。「南無八幡大菩薩」は、源頼政の時代、源氏の守護神としてのみならず、国民的守護神(=神仏習合の象徴で全ての寺の守護神)として広く信仰されていたとも聞きます。「南無八幡大菩薩」と唱えて立ち上がるべきは、内部から自浄作用を働かせることのできるカネボウや経済産業省の心ある人たちかもしれません。そのことが、結果として自らの組織を守り、同時に国民全体の利益も守ることにつながるでしょう。

経済産業省の不祥事、もちろん、国会でも追及していきます。

(了)


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