政治経済レポート:OKマガジン(Vol.117)2006.3.26


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


先週21日、中露首脳会談が行われ、両国が戦略的パートナーシップを強化することを発表しました。23日、米国首脳は台湾・馬英九国民党主席(台北市長)と異例の長時間会談を行ったうえで、翌24日、来月20日の中国・胡錦濤主席の訪米を中国側が主張している「国賓」待遇ではなく、1ランク低い「公式訪問」とすることを発表しました。前号(Vol.116)では米中露の熾烈な外交ゲームの一端をご紹介しましたが、この展開も前号の内容と大いに関係があります。詳細は次号(Vol.118)でお伝えします。

1.コンプライアンスの本質

先週15日、参議院予算委員会で小泉首相と質疑を行いました。おそらくこれが最後になると思います。最後ですから、小泉首相の功績についても評価すべき点は評価したいと思って質疑に臨みましたが、相変わらずの答弁ぶりにガッカリ(・・・というよりガックリ)。就任当初は期待をした面もありましたが、小泉首相にはホトホト愛想が尽きました。

今回は、ライブドア問題をはじめ、金融・証券に関連する不祥事(事件、事故)が相次いでいることを受けての集中審議です。そこで、金融・証券不祥事の背景について問題提起するつもりで質問に立ちました。

背景の第1は、関係者のコンプライアンス意識の低さ。小泉首相に「コンプライアンスについてどのように認識していますか」と質問したところ、「意味もよく分からない外来語が氾濫しすぎる」と例によってはぐらかし答弁。

問題は、コンプライアンスを「法令遵守」と狭く解釈し、「法律さえ守ればよい」という誤解をしている人が少なくないことにあります。その結果、法の網の目をかいくぐって、脱法行為、あるいは違法行為スレスレのビジネスを行ったことがライブドア事件につながりました。

コンプライアンスとは単なる「法令遵守」ではなく、どのようにビジネスを行って何を実現するかという「企業倫理」や「企業価値」といった概念を含んだ言葉だと理解しています。そのことについて首相の認識を聞きたかったのですが、はぐらかしてその場を凌ごうとする姿勢は残念でなりません。為政者の姿勢は直接、間接に社会全体に影響を与えます。

小泉首相は「コンプライアンスなんて言葉は使わないほうがいい」とも発言しました。コンプライアンス対応に右往左往させられている企業や国民の皆さんのご苦労が忍ばれますが、いずれにしても、一国の首相の発言です。近日中に霞ヶ関の組織名称や公式文書の文言から「コンプライアンス」という単語が消えることと思います。確認させて頂きます。

2.「最大自由」と「最大規律」

第2は、違法行為に対する罰則の低さです。10日に閣議決定された金融商品取引法案(現在の証券取引法の改正案)では、個人に対する罰金は2倍に引き上げられた一方、法人に対しては1.4〜1.6倍。おまけに、米国の企業改革法に比べると5分の1程度。これでは、違法行為の抑止力が十分ではありません。また、個人と法人で罰則強化の程度が異なる理由もよく分かりません。

日本の金融・証券法制は、橋本改革の金融ビッグバン以来、自由化の方向で進んでいます。そのこと自体が悪いわけではありません。問題は、取引行為の自由化と違法行為に対する規律厳格化のバランスがとれていないことです。

米国型資本主義、米国型自由主義には賛否両論ありますが、意外に知られていないのが、米国では罰則が驚くほど厳しいという点です。つまり、「最大自由」と「最大規律」によってバランスが維持されているのです。

日本の金融ビッグバンは、取引行為の自由化は米国型自由主義を追随していますが、違法行為に対する規律の厳格化は十分ではありません。

そのことに対する小泉首相の考え方も質問しましたが、これまた明快な答弁は聞けませんでした。残念なことです。おそらく、明確な指示や方針は示していないのでしょう。

現在の証券取引法では、有価証券報告書の虚偽記載に対する損害賠償権の時効は3年です。一方、刑法における詐欺罪の時効は10〜15年。個人に対する詐欺罪の時効に比べ、不特定多数の投資家に対する時効が短すぎることもバランスを欠いています。

こういう点も、金融・証券不祥事が後を絶たない背景のひとつです。これらの問題点の解決は、次期首相に期待することとします。

3.いつか来た道

第3は不祥事を誘発する経済環境です。現在の金融・証券不祥事の頻発は、1987年から1993年にかけてのバブル期に続く様相を呈し始めています。

当時は、1988年のリクルート事件を契機に次々と不祥事が起こり、とうとう1992年には衆参両院に金融・証券問題特別委員会が設置されました。

その背景には、異常な金融緩和政策がありました。前回も今回も、国の財政余力の乏しさから金融政策に必要以上の緩和圧力がかかり、結果としてバブルを生み出しています。そのことが、株、不動産、絵画などの資産バブルを生み出し、それを悪用した不祥事を誘発するという構造です。

この間の株価、公定歩合、財政赤字の推移を示したグラフ(予算委員会で使用した資料)をホームページの資料コーナーにアップしました。ご興味のある方はご覧ください。

資産価格が合理的な要因に裏付けられて上昇するのは良いことです。しかし、金融緩和を主たる要因として上昇し始め、しかも、出遅れた投資家が相場上昇を当て込んだ投機的取引を行い始めると、それにつけ込んだ詐欺まがいの投資勧誘行為が起き易いようです。

前回のバブル期には、株価が2万円前後からピークの3万8千円に上昇する過程で多くの金融・証券不祥事の種が蒔かれました。最大の事件がリクルート事件です。

今回も8千円割れの局面から現在の1万6千円台に上昇する過程でライブドア事件が起きました。単なる偶然かもしれませんが、株価が概ね2倍に上昇する中で事件が潜伏し、一部は顕現化し始めています。

もちろん、相場がそういう状況であっても、関係者のコンプライアンス意識が高ければ相対的に不祥事は抑制されますが、何しろ為政者自身が「そんな外来語はわかりにくい」と言って憚らない(はばからない)国です。いつか来た道を再び歩む潜在的リスクは低くないと言わざるを得ません。

加えて、金融緩和の背景にある財政余力の乏しさは一段と厳しさを増すばかりです。構造改革とは、本来、財政のムダ遣いや、コスト高の経済構造を生み出している不要不急の規制をなくすことだったはずです。それによって、財政健全化を図り、高すぎる日本の生産物価や生活物価を引き下げることが目標だったと思います。

残念ながら、小泉首相の在任中に財政赤字(国と地方の長期債務)は一貫して増加し、今や800兆円に達しています。隠れ借金や事実上の長期債務(短期債務のロールオーバー)を含めると1500兆円近くに上ります。

インフレ指向も強めています。規制緩和と技術革新により、本来であれば、諸外国に比べて高すぎる生産物価、生活物価に関して、わずかに下がり気味の状況をつくるのが構造改革の所期の目的だったはずです。しかし、財政赤字を解消するために、インフレに伴う国民負担による解決(インフレによる国民の預貯金等の実質的目減り)の道を選択したということでしょう。

小泉首相とは、こうした選択の是非も真面目に議論できそうにありません。日本の未来、社会のあり方、政策の選択肢について、真摯に議論に応じて頂ける方が、一刻も早く次期首相に就任されることを祈念しています。さらば、小泉首相。

蛇足ですが、「麻垣康三」の4氏の中では、僕は断然「垣」派です。国会で実際に質疑をしている者の実感として、谷垣さんが最適任者だと思います。あとの3氏には、小泉首相と似たような答弁で国会審議を形骸化させるリスクを感じています。

(了)


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