政治経済レポート:OKマガジン(Vol.128)2006.9.8


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


秋篠宮妃殿下が新宮さまをご出産されました。おめでとうございます。新宮さまの健やかなご成長をお祈り申し上げます。

1.比較優位

先月末の某紙朝刊で、日本の自動車メーカーが中国での生産における部品の現地調達比率を高めつつあると報じられていました。中国メーカーが台頭していることから、現地調達比率を高めることで物流・関税コストを削減し、中国国内での価格競争力を強化することを企図しているそうです。

日米貿易摩擦が激化した1980年代以降、米国では部品の現地調達比率が高まり、現在では7〜8割。中国でもいずれは米国並みの現地調達比率に達し、日米間の現象と同じことが日中間で起きつつあるというトーンの記事でした。

しかし、日米と日中では根本的に異なる点が2点あります。ひとつは比較優位を巡る動き。

日米の場合、自動車生産における技術的、コスト的な比較優位(競争相手よりも優れていること)はいずれも日本に軍配が上がっていました。そのため、日本車の輸出が急増し、貿易摩擦が激化。言わば、比較優位にある日本が、米国に気を使って、技術的、コスト的に劣位にある米国企業を活用して現地調達比率を高めたのです。

一方、現在の日中の場合、技術的には日本、コスト的には中国が比較優位です。そうした中、低コスト生産が可能な中国メーカーの台頭によって、中国国内の日本車販売シェアが低下する可能性が高まっています。そこで、部品の現地調達比率を高めてコストダウンを企図。言わば、中国の攻勢に応戦する格好で現地調達比率を高めるのです。

技術的な比較優位がコスト的な比較優位に負けたとも言えます。

2.プライスリーダーシップ

もうひとつはプライスリーダーシップの所在。日米の場合、国民の所得も自動車価格も日本より米国の方が高かったために、プライスリーダーシップは安くて性能の良い製品を提供できる日本にありました。

一方、日中の場合、日米と全く逆。プライスリーダーシップは、日本車よりも廉価な製品を提供できる中国にあります。もちろん、その裏付けの主因が無尽蔵に供給される低コスト労働力であることは言うまでもありません。

中国の低価格車にコストダウンで応戦する戦略をとり続けると、やがては高い技術力を要する生産ラインも中国に移転せざるを得ず、いつしか技術的にも中国が比較優位となる可能性があります。

日本より労働コストも所得も高く、自動車価格も高い米国市場でのシェア拡大を狙うことと、逆に、日本より労働コストも所得も低く、自動車価格も低い中国市場でのシェア拡大を狙うことは、根本的に異なる経営戦略であるという点に留意が必要です。

そういう視点から言えば、中国国内には中国国産車並みの品質の製品を供給するのにとどめるという発想も考えられます。高品質を追求するばかりでなく、品質を制御するのも経営戦略と言えるかもしれません。

3.国家戦略

日米と日中の違いは、中国の特殊性にもよります。中国の場合、低コストの労働力を内陸部から無尽蔵に供給可能です。

従業員の熟練度が高まり、賃金が上昇すれば、再び内陸部から低コストの未熟練労働力を導入。高コストの熟練労働力に代替します。こういう展開は、中国の人口規模と、内陸部や農村地域の経済状況を考えると、当分の間続く可能性があります。

前段でも指摘しましたが、中国の低コスト攻勢にコストダウンで応戦する戦略をとり続けると、やがては高い技術力を要する生産ラインも中国に移転せざるを得なくなるかもしれません。

こうした懸念に対して、一昨年頃から、高い技術を要する生産ラインや製造業のコア部分は中国に移管せず、日本に温存する企業や産業が増えているようです。なるほど、それはひとつの考え方です。

日本企業全体がそうした行動をとれば有効な経営戦略となりますが、抜け駆けする企業が出れば、その有効性は低下します。

今後、当分の間続く中国の低コスト攻勢に対応するためには、日本企業全体として対中国の経営戦略を共有し、遵守すること、もっと言えば、オールジャパンで応戦することが求められます。

それを表立って、声高に唱える必要はありません。暗黙のルール、潜在的な考え方として共有し、それを遵守できるか否かです。

「統制経済的な政策だ」という批判も聞こえてきそうですが、米国は、オールUSAで日本の航空機産業や医薬産業の発展を抑止する政策をとっています。日本や中国が保有している米国債を売却させないような圧力もかけています。

日本においては、「産業政策、経済政策は国家戦略そのものである」という認識が他国に比べてやや乏しいような気がします。中国の低コスト攻勢に対する戦略は、個々の企業や産業任せにすることなく、国策として考えていくべき問題です。

まもなく発足する新政権の考え方について、臨時国会の論戦で確認してみたいと思います。今から楽しみです。

(了)


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